イシグロのわたしたちが孤児だったころに影響を与えた本
探偵小説の影響:過去の謎を解き明かす
カズオ・イシグロの小説「わたしたちが孤児だったころ」は、過去の謎に翻弄される主人公の姿を描いた作品です。この作品において、特に大きな影響を与えていると考えられるのが、アガサ・クリスティーなどの古典的な探偵小説です。
記憶と真実の曖昧さを描く
クリスティーの作品に見られる、複雑に絡み合った人間関係や巧妙な伏線、そして意外な結末といった要素は、「わたしたちが孤児だったころ」にも色濃く反映されています。主人公であるクリストファー・バンクスは、探偵さながらに、両親失踪の真相を探るために上海へ渡り、過去の記憶を頼りに調査を進めていきます。
ノスタルジックな舞台設定:戦争と記憶の影
しかし、イシグロの作品は、単なるミステリー小説の枠には収まりません。クリスティー作品が主に閉鎖的な空間を舞台としているのに対し、「わたしたちが孤児だったころ」は、1930年代の上海という国際都市を舞台に、戦争や植民地主義といった歴史的な背景が色濃く反映されています。
曖昧な結末:解釈の余地を残す
また、イシグロは、過去の記憶の曖昧さを巧みに利用することで、読者に真実は何かを問いかけるという、もう一つのテーマを浮かび上がらせています。クリスティー作品のように、すべての謎が解き明かされるわけではない点も特徴です。
このように、「わたしたちが孤児だったころ」は、古典的な探偵小説の影響を受けながらも、イシグロ独自の視点と文体によって、記憶、歴史、真実といった普遍的なテーマを深く掘り下げた作品と言えるでしょう。