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イシグロの「浮世の画家」と言語

## イシグロの「浮世の画家」と言語

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語り手である小野の語りと言語

「浮世の画家」は、戦後まもなくの日本を舞台に、かつて国民的画家として名を馳せた小野老人を語り手とする一人称小説です。老人は引退後の静かな生活の中で、自身の過去を振り返りながら、娘の縁談や戦前の弟子との再会を通して、自身の芸術観や人生観を揺さぶられることになります。

小野の語りは、意識の流れに沿って、過去と現在を行き来する複雑な構造を持つ点が特徴です。回想は断片的で、時系列順に語られるわけではありません。読者は、老人の曖昧な記憶や隠された本心に翻弄されながら、物語を解釈していくことになります。

また、小野の言語は、老人の社会的地位や時代背景を反映した、形式ばった丁寧な表現が特徴です。戦前の価値観や道徳観を強く内面化した老人は、直接的な表現を避け、婉曲的な言い回しや曖昧な表現を多用します。特に、自身の過去の行いや責任については、言葉を濁したり、責任転嫁とも取れるような発言が目立ちます。

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沈黙と言葉にされない感情

「浮世の画家」では、言葉で表現されない沈黙や隠された感情が重要な役割を果たしています。小野は、自身の過去の過ちや娘への愛情など、重要な事柄について多くを語りません。しかし、沈黙や言葉の裏側にこそ、老人の複雑な心情や葛藤が読み取れます。

例えば、小野は戦時中、軍部に加担してプロパガンダ絵画を描いていた過去を持ちますが、そのことについて明確な謝罪や反省の言葉を口にすることはありません。しかし、戦後の弟子との再会や娘の縁談を通して、老人は過去の行いと向き合い、自らの責任について自問自答している様子がうかがえます。

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記憶の曖昧さと言語の不確かさ

「浮世の画家」では、記憶の曖昧さと言語の不確かさが重要なテーマとして浮かび上がります。小野の語りは、断片的で矛盾を含み、必ずしも客観的な事実を反映しているとは限りません。老人は、自身の都合の良いように記憶を改変したり、過去の出来事を美化したりしている可能性も示唆されています。

また、小説では言葉が持つ曖昧性や多義性が強調されています。同じ言葉が、異なる文脈で使用されることで、全く異なる意味を持つことがあります。読者は、小野の言葉を鵜呑みにするのではなく、文脈や状況を考慮しながら、その真意を読み解いていく必要があります。

このように、「浮世の画家」における言語は、単なるコミュニケーションの道具ではなく、登場人物の心情や関係性を浮き彫りにし、物語全体のテーマを暗示する重要な役割を担っています。

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