## イェーリングのローマ法の精神の批評
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国民性と法の関係に関する批判
イェーリングは、ローマ法の精神において、法を国民の精神的産物と捉え、ローマ民族の国民性と結びつけてローマ法の特質を説明しようとしました。しかし、この点に関して、以下のような批判が挙げられます。
* **国民性の定義の曖昧性:** イェーリングは、国民性を「国民の共通の信念、価値観、行動様式」といったように漠然と定義しており、具体的な定義が欠如しています。そのため、国民性と法の関係が恣意的に解釈される可能性があります。
* **国民性の影響の過大評価:** ローマ法は、長い歴史の中で、様々な民族の法制度や法思想の影響を受けて発展してきました。イェーリングは、ローマ民族固有の国民性を過度に強調することで、外部からの影響を軽視しているとの指摘があります。
* **決定論的な歴史観:** イェーリングの法発展論は、国民性が法を規定するという決定論的な歴史観に基づいています。しかし、法は、国民性だけでなく、政治、経済、社会といった様々な要因が複雑に絡み合って発展するものであり、国民性のみを強調するのは一面的であると言えます。
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ローマ法の評価に関する批判
イェーリングは、ローマ法を「法的思考の完成形」と高く評価し、近代法にも影響を与えたと主張しました。しかし、この点に関しても、以下のような批判が考えられます。
* **ローマ法の理想化:** イェーリングは、ローマ法の長所を強調する一方で、その欠陥や限界については十分に論じていません。例えば、ローマ法における奴隷制や身分制度といった問題点が無視されています。
* **歴史的文脈の軽視:** イェーリングは、ローマ法を普遍的な法体系として捉え、その時代背景や社会状況を十分に考慮していません。ローマ法は、あくまでも古代ローマ社会における法であり、近代社会にそのまま適用するには無理があります。
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方法論に関する批判
イェーリングは、膨大な量の史料を駆使してローマ法を分析していますが、その方法論にも批判があります。
* **恣意的な史料解釈:** イェーリングは、自説に都合の良い史料のみを抽出し、都合の悪い史料は軽視したり、曲解したりしているという指摘があります。
* **比較法的視点の不足:** イェーリングは、ローマ法を他の法体系と比較検討することをほとんど行っていません。そのため、ローマ法の独自性や普遍性を客観的に評価することができていません。
これらの批判は、「イェーリングのローマ法の精神」が、画期的かつ影響力のある著作である一方で、その内容や方法論には議論の余地があることを示しています。