## イェーリングのローマ法の精神の思想的背景
### 19世紀後半のドイツにおけるローマ法学の隆盛
イェーリングが活躍した19世紀後半のドイツは、ローマ法学が隆盛を極めていた時代でした。 これは、ドイツが統一国家として成立する過程で、統一的な法体系の構築が急務とされ、そのモデルとして高度に体系化されたローマ法が注目されたためです。 特に、ローマ法の解釈方法として、法典の文言にとらわれず、背後にある法的原理や概念を重視する「概念法学」が主流となっていました。概念法学は、論理的な整合性や体系性を重視する学風であり、ローマ法を精密な論理体系として再構成しようとしました。
### 歴史主義の影響と歴史法学の台頭
19世紀のドイツでは、歴史主義が学問分野全体に大きな影響を与えていました。 歴史主義は、あらゆる現象を歴史的な発展の産物として捉え、その固有性を理解しようとしました。 法学の分野においても、歴史主義の影響を受けて、法を単なる論理体系ではなく、歴史の中で形成された社会的な産物として捉える歴史法学が台頭しました。 歴史法学は、法の起源や発展を歴史的に研究することによって、その本質を明らかにしようとしました。
### イェーリングの立場：概念法学と歴史法学の批判的継承
イェーリングは、当時のドイツ法学界を支配していた概念法学と歴史法学の双方に対して、鋭い批判を加えました。彼は、概念法学が法を現実から遊離した抽象的な論理体系に陥らせていると批判し、歴史法学が歴史研究に偏りすぎて、現代の法的問題に対する解決策を示すことができていないと批判しました。
イェーリングは、概念法学の論理的な思考方法や体系的な分析方法を高く評価しつつも、法は単なる論理ゲームではなく、社会生活における現実の必要性から生まれたものであることを強調しました。また、歴史法学の法の歴史的発展に対する洞察を評価しつつも、歴史は単なる過去の出来事ではなく、現代にも通じる法的原理や概念を生み出してきたと主張しました。