## アーレントの全体主義の起源を読む
全体主義の起源とは
ハンナ・アーレントの代表作として知られる『全体主義の起源』は、1951年に初版が刊行されました。ナチズムとスターリニズムという、20世紀に台頭した二つの全体主義体制の共通点と差異点を分析し、その起源と本質に迫ろうとした記念碑的作品です。
全体主義の起源の内容
本書は三部構成となっており、それぞれが独立したテーマを扱いつつ、相互に関連し合いながら全体主義の全体像を浮かび上がらせます。
**第一部 反ユダヤ主義の歴史**
ここでは、19世紀後半のヨーロッパにおける反ユダヤ主義の発生と発展を扱います。アーレントは、従来の宗教的偏見とは異なる、近代的な反ユダヤ主義の特徴を分析します。特に、資本主義の発展と国民国家の形成の中で、ユダヤ人が「社会の敵」として排斥されていく過程を明らかにします。
**第二部 帝国主義**
19世紀後半から20世紀初頭にかけての帝国主義を分析し、全体主義との関連性を明らかにします。アーレントは、帝国主義の expansionism（拡張主義）が、人種主義的なイデオロギーと結びつき、世界支配を目指す全体主義の原型になったと主張します。また、帝国主義によって生み出された、国家と社会から排除された「大衆」の存在が、全体主義の温床になったと分析します。
**第三部 全体主義**
ナチス・ドイツとスターリン主義下のソ連という、二つの全体主義体制の共通点と差異点を詳細に分析します。アーレントは、全体主義の特徴として、 • テロルによる支配 • イデオロギーによる大衆操作 • 個人を抹殺する全体化の動きなどを挙げ、そのメカニズムを解明しようとします。
全体主義の起源を読む際の注意点
本書は難解なことで知られており、読み進めるには以下の点に注意が必要です。
* **膨大な情報量と緻密な論理**: 歴史、政治、哲学など、多岐にわたる分野の知識が前提とされており、アーレントの論理を追うには、集中力と忍耐が必要です。
* **独自の用語**: アーレントは、「全体主義」「大衆社会」などの用語を独特の意味で用いています。これらの用語の意味を正確に理解することが、本書を読み解く鍵となります。
* **歴史的文脈**: 本書は、執筆当時の冷戦体制を背景に書かれています。そのため、現代の視点から見ると、偏っていると感じられる部分もあるかもしれません。
まとめ
『全体主義の起源』は、全体主義という20世紀最大の悲劇を理解するために不可欠な古典です。難解な部分もありますが、読み解く価値は十分にあります。本書を読むことで、私たちは、現代社会における全体主義の危険性についても改めて考えることができるでしょう。