## アーレントの全体主義の起源の構成
アーレントの主著『全体主義の起源』は、全体主義という20世紀に台頭した新たな政治形態の起源、構造、そしてその結果を分析した大著です。 全体主義の「起源」というタイトルが示すように、アーレントはナチズムとスターリニズムという二つの全体主義体制を歴史的文脈の中に位置づけ、その共通点と相違点を浮き彫りにしています。
第一部 反ユダヤ主義の歴史
第一部「反ユダヤ主義の歴史」では、19世紀後半のヨーロッパにおける反ユダヤ主義の台頭を分析します。アーレントは、反ユダヤ主義を単なる偏見や差別ではなく、近代社会の特定の政治的、社会的、経済的な危機と密接に結びついた現象として捉えます。
具体的には、国民国家の形成と崩壊、資本主義の矛盾、そして伝統的な社会秩序の崩壊といった要因が、ユダヤ人をスケープゴートにすることで社会不安を解消しようとする動きを生み出したとアーレントは主張します。
特に、ユダヤ人が金融資本主義と結びつけられ、国家や民族といった伝統的な共同体の枠組みを超越した存在とみなされたことが、反ユダヤ主義の激化に拍車をかけたとアーレントは指摘します。
第二部 帝国主義
第二部「帝国主義」では、19世紀後半から20世紀初頭にかけてのヨーロッパ列強による植民地支配を分析します。アーレントは、帝国主義を単なる経済的搾取としてではなく、全体主義体制を生み出した政治的な実験場として捉えます。
アーレントによれば、帝国主義はヨーロッパに人種主義、社会ダーウィニズム、そして政治的支配における暴力の正当化といった、全体主義体制の重要な要素を持ち込みました。
また、植民地における無制限の権力行使は、ヨーロッパにおける政治的な規範や倫理観を蝕み、全体主義体制の出現を準備したとアーレントは主張します。
第三部 全体主義
第三部「全体主義」では、ナチズムとスターリニズムという二つの全体主義体制の構造と機能を詳細に分析します。アーレントは、全体主義を単なる独裁政治とは異なる、全く新しいタイプの政治体制として捉えます。
アーレントによれば、全体主義体制は、テロとイデオロギーを通じて、社会のあらゆる側面を支配下に置こうとします。また、大衆社会における孤立と疎外を利用して、人々を国家に無条件に服従する「大衆」へと変貌させようとします。
アーレントは、強制収容所を全体主義体制の最も極端な形態として分析し、そこでは人間の多元性と自発性が完全に抹殺されると指摘します。
アーレントの『全体主義の起源』は、全体主義の分析を通して、現代社会における政治、権力、そして人間の条件について深い洞察を提供する古典的な著作として、今日でも読み継がれています。