## アーレントの全体主義の起源の批評
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アーレントの全体主義概念への批判
アーレントの全体主義概念は、それが歴史的現実を歪曲していると批判されてきました。例えば、彼女はナチス・ドイツとソ連を同一視していますが、両者のイデオロギーや実践には大きな違いがあったと指摘する歴史家は少なくありません。
具体的には、ナチズムが人種に基づく生物学的決定論をイデオロギーの中心に据えていたのに対し、ソ連は共産主義という普遍主義的なイデオロギーに基づいていました。 また、ナチス・ドイツは計画経済を採用せず、民間企業の役割を大きく残していましたが、ソ連は徹底した計画経済を実施していました。 アーレントはこれらの重要な違いを軽視しすぎているという批判があります。
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アーレントの史料解釈への批判
アーレントは、全体主義の起源を19世紀にまで遡って説明しようとしましたが、その過程で歴史的事実を都合よく解釈しているという批判があります。
例えば、彼女は帝国主義を全体主義の重要な起源としていますが、帝国主義と全体主義の関係は複雑であり、安易に結びつけることはできないと指摘されています。
また、アーレントは全体主義の台頭を説明するために、大衆社会論や反ユダヤ主義などを分析していますが、これらの要因を過度に強調しすぎているという指摘もあります。
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アーレントの議論の抽象性への批判
アーレントの議論は抽象的すぎ、現実の政治現象を説明する上で十分な説得力を持たないという批判があります。
彼女は全体主義を「全体としての社会を支配しようとする運動」と定義していますが、この定義はあまりにも広範であり、全体主義以外の政治体制にも当てはまってしまう可能性があります。
また、アーレントは全体主義の恐怖政治を分析する際に、イデオロギーやプロパガンダの役割を重視していますが、恐怖政治を支える具体的なメカニズムについては十分に説明していません。
これらの批判は、アーレントの全体主義論が歴史的現実を十分に捉えきれていないことを示唆しています。