アリストテレスの詩学の思索
アリストテレスの詩学とは
古代ギリシャの哲学者アリストテレスが記した『詩学』は、西洋美学の基礎を築いた重要な著作として知られています。 この書の中でアリストテレスは、詩(ポイエーシス)の本質、悲劇、叙事詩、喜劇といったジャンル、そしてそれらの構成要素について体系的に分析しています。 特に、彼の悲劇論は、後の時代の演劇理論や創作に多大な影響を与えました。
模倣(ミメーシス)
アリストテレスは、詩を「模倣」であると捉えました。 彼にとって模倣とは、単なる現実のコピーではなく、人間の普遍的な本質や行動を、言語やリズム、旋律といった素材を用いて表現することでした。 そして、優れた詩作品は、現実を超えた真実や理想を描き出すことができると考えました。
悲劇論:カタルシス
アリストテレスは、悲劇を「高貴な人物が、運命の転換によって不幸に陥る様を描くことによって、観客に恐怖と憐れみを感じさせ、最終的にそれらの感情を浄化する(カタルシス)もの」と定義しました。 彼は、悲劇の主人公が、過失(ハマルティア)によって運命の転落を経験することで、観客は恐怖と憐れみを感じ、自己の感情を浄化することができると考えたのです。
悲劇の構成要素
アリストテレスは、悲劇を構成する六つの要素として、筋(プロット)、登場人物、思想、言語、音楽、視覚効果を挙げました。 彼は、これらの要素の中で、筋が最も重要であると考え、筋は「悲劇の目標であり、魂である」と述べています。 また、筋は、必然性と蓋然性に基づいて構成されるべきであると主張しました。
叙事詩と喜劇
アリストテレスは、叙事詩も模倣の形式の一つであると考えましたが、悲劇とは異なる点があると指摘しました。 例えば、叙事詩は悲劇よりも扱う時間的範囲が広く、また登場人物の身分も高貴であることが多いとされました。 喜劇については、悲劇のように体系的な分析は行っていませんが、滑稽な人物の滑稽な行動を描くことによって、観客に笑いを提供するものであると述べています。
アリストテレスの『詩学』は、西洋美学の基礎を築いただけでなく、現代の文学や演劇にも影響を与え続けている重要な著作です。