## アリストテレスの詩学と時間
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時間とプロット
アリストテレスは『詩学』において、悲劇を「ある程度の長さを持った行為の模倣」と定義し、その要素として時間の概念を導入しています。 アリストテレスは、プロットが持つべき長さについて、観客の記憶と快感の観点から論じています。
まず、プロットは「ひとつの全体として把握できる長さ」であるべきだと述べています。これは、観客がプロットの全体像を理解し、始まりから終わりまでを記憶しておくことができる範囲内でなければならないことを意味します。
次に、プロットの長さは「可能な限り、ひとつの日の周期的時間の枠内で、あるいはそれを僅かに超える程度にとどめるべき」だと述べています。これは、観客が自然な時間経過の中で物語を追体験し、感情移入を深めることができるようにするためです。
しかし、アリストテレスは、単に時間的な制約を設けることが目的ではなく、あくまでも「物語の複雑さと完結性」とのバランスが重要であることを強調しています。 つまり、プロットが複雑で多くのエピソードを含む場合は、時間的な制約を多少超えても構わないということです。
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時間と認識
アリストテレスは、悲劇を通して観客がカタルシスを得るためには、劇中の出来事を「必然的あるいは蓋然的」に生起するものとして認識することが重要であると述べています。
時間はこの認識過程において重要な役割を果たします。観客は、劇中の出来事が一定の時間経過の中で展開されることで、因果関係や必然性を理解し、登場人物の行動に納得感を得ることができます。
例えば、登場人物が過去の出来事によって現在の行動に影響を受けている場合、その時間的な経過が明確に描かれていることで、観客は登場人物の心理や行動の動機を理解することができます。
逆に、時間的な経過が曖昧であったり、不自然な展開があると、観客は物語に没入することができず、カタルシスを得ることも難しくなります。