アリストテレスの自然学が扱う社会問題
自然における支配と被支配の関係
アリストテレスの自然学は、単に自然現象を説明するだけでなく、当時の社会問題を反映した側面も持ち合わせています。特に注目すべきは、自然界における支配と被支配の関係を論じた点です。アリストテレスは、自然には階層が存在し、上位のものほど完成度が高く、下位のものを支配すると考えました。
例えば、生物においては、植物よりも動物、感覚を持つ動物よりも理性を持つ人間が上位に位置づけられます。 また、人間社会においても同様の階層構造を見出し、男性は女性よりも、主人 は奴隷よりも上位に位置づけられるとしました。
自然の階層と社会的不平等
この自然における支配と被支配の関係は、当時の社会における奴隷制や女性差別を正当化する根拠として利用されました。アリストテレス自身、奴隷制を容認しており、「自然奴隷」という概念を用いて、生まれつき支配されるべき人間が存在すると主張しました。
しかし、アリストテレスの自然観は、現代の視点から見ると大きな問題を抱えています。それは、自然の階層を人間の社会構造にそのまま当てはめることの危険性です。自然の秩序を社会的な不平等を正当化する論拠とすることは、差別や搾取を許容することに繋がりかねません。
自然観と社会正義
アリストテレスの自然学は、社会における正義の問題にも深く関わっています。彼は、「万物はそれぞれの機能を果たすことによって幸福になる」という目的論的な世界観を持っていました。人間の場合、その機能は理性を使うことであるとされ、理性に従って徳を追求することが幸福に繋がると考えました。
この考え方は、社会における役割分担の重要性を説くものでもあります。それぞれが自分の能力や立場に合った役割を果たすことによって、社会全体の秩序と調和が保たれるというわけです。
しかし、この考え方もまた、社会における不平等を固定化する可能性を孕んでいます。アリストテレスは、社会における地位や役割は、生まれつきの能力によって決まると考えていました。