アリストテレスの弁論術に影響を与えた本
プラトンの対話篇
アリストテレスの弁論術に大きな影響を与えた一冊の本を選ぶのは難しいことですが、プラトンの対話篇は、特にその影響を無視することはできません。アリストテレスはプラトンの弟子であり、アカデメイアで20年間を過ごしました。プラトンの哲学、特にイデア論や魂の不死に関する思想は、アリストテレス自身の哲学体系の形成に大きな影響を与えています。しかし、弁論術という観点から見ると、プラトンの対話篇は単なる哲学書以上の意味を持ちます。
プラトンの対話篇は、ソクラテスを主人公として、様々なテーマについて対話形式で論じる作品群です。ソクラテスは巧みな問答によって相手の矛盾を突いたり、無知を自覚させたりする人物として描かれています。このソクラテスの弁論術は、当時のアテネにおいて大きな影響力を持っていました。アリストテレスはプラトンの対話篇を通じて、ソクラテスの弁論術を間近で観察し、その効果を分析する機会を得たと考えられます。
例えば、「ゴルギアス」や「パイドロス」といった対話篇では、弁論術そのものがテーマとして扱われています。これらの作品でプラトンは、ソクラテスを通して、当時の弁論術のあり方を批判し、真の弁論術とは何かを問いかけています。真の弁論術とは、単に相手を説得する技術ではなく、真実を追求し、魂を善へと導くための技術であるとソクラテスは主張します。
アリストテレスの「弁論術」は、プラトンのこれらの思想を受け継ぎつつ、より体系的かつ実践的な弁論術の理論を構築しようとした作品と言えるでしょう。アリストテレスはプラトンのように弁論術そのものを批判するのではなく、むしろ弁論術を政治や法廷など現実の場面で効果的に活用するための技術として捉え直しました。
しかし、「弁論術」の中には、プラトンの対話篇におけるソクラテスの弁論術の影響を色濃く感じさせる部分が多く見られます。例えば、アリストテレスが「弁論術」で重視する論理的思考や倫理的 appeal は、プラトンの対話篇におけるソクラテスの弁論術の特徴と重なっています。また、アリストテレスが「弁論術」で提示する三種類の appeal 、すなわち logos, pathos, ethos は、「パイドロス」で言及されている三種類の弁論術と類似しています。
このように、プラトンの対話篇は、アリストテレスの弁論術に多大な影響を与えたと言えるでしょう。アリストテレスはプラトンの思想を批判的に継承しつつ、独自の弁論術理論を構築していきました。