## アリストテレスのニコマコス倫理学の思想的背景
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古代ギリシャにおける倫理思想
アリストテレス倫理学を理解する上で、当時の古代ギリシャにおける倫理思想を理解することは重要です。ソクラテス以前の時代、倫理的な問いは主に神話や宗教、伝統的な慣習に基づいて解釈されていました。しかし、ソクラテスとその後のプラトンは、人間の理性に基づいた倫理の探求を重視するようになりました。彼らは、善とは何か、正義とは何かといった普遍的な概念を定義しようと試み、対話を通じて人間の倫理的な行動の根拠を探求しました。
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プラトンのイデア論とアリストテレス
アリストテレスはプラトンのアカデメイアに学び、その影響を強く受けました。特に、プラトンのイデア論は、アリストテレスの倫理思想の基礎となっています。プラトンは、感覚的に認識できるこの世界は、真の実在であるイデア世界の単なる影に過ぎないと考えました。そして、善のイデアは、他のあらゆるイデアの根源であり、人間の魂は、この世に生まれる前に善のイデアを目にしたことがあるため、善を認識できるとしました。
しかし、アリストテレスはプラトンのイデア論を批判的に継承しました。彼は、イデアが感覚的な世界とは別に存在するという考えに疑問を呈し、真の実在はこの世界に存在すると主張しました。そして、あらゆる存在は、形相(エイドス)と質料(ヒュレー)から成り立っており、形相は事物に内在する本質的な性質や機能であると考えました。
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目的論的な自然観
アリストテレスは、自然界のあらゆる存在は、それ自体に固有の目的や機能を持っているという目的論的な自然観を持っていました。例えば、ナイフの目的は物を切ること、目の目的は見ることといったように、あらゆる存在はその目的を達成するために最適な形で存在しています。そして、人間もまた、自然の一部として、その本性に固有の目的を持っていると考えました。