アポロドロスのギリシア神話の表現
簡潔で要約的な語り口
「アポロドロスのギリシア神話」は、物語的な潤色や修辞的な技巧を排した、簡潔で要約的な文体で記述されています。これは、膨大なギリシア神話を体系的にまとめ、網羅することを目的としたためと考えられます。
例えば、登場人物の心情描写や場面の情景描写はほとんど見られず、事件のあらすじが淡々と語られます。
系譜中心主義
本書の特徴として、神々や英雄の系譜を重視している点が挙げられます。
各物語は、系譜上のつながりに沿って配置され、誰が誰の子孫であるか、あるいは誰と結婚して誰をもうけたのかといった情報が詳細に記述されています。これは、本書が単なる物語集ではなく、ギリシア神話の世界を体系的に理解するための「手引き」として機能することを目指していたことを示唆しています。
異伝のバリエーション
ギリシア神話は、地域や時代によってさまざまな異伝が存在することで知られています。本書では、そうした異伝のバリエーションについても、可能な限り網羅的に紹介しています。
ただし、どれが「正統な」神話であるかといった判断は行わず、あくまで並列的に提示するにとどめています。
引用の多用
アポロドロス自身は、独自の創作をほとんど加えず、先行する詩人や劇作家たちの作品から引用を積み重ねることで本書を編纂しました。
具体的には、ホメロス、ヘシオドス、悲劇詩人たちの作品などが多く引用されています。