## アポロドロスのギリシア神話の思想的背景
### 1.
ヘレニズム時代の影響
アポロドロスは、ヘレニズム時代(紀元前323年 – 紀元前30年)に活動したとされています。ヘレニズム時代は、アレクサンドロス大王の東方遠征によってギリシア文化がオリエント世界に広がり、逆にオリエント文化の影響を受けた時代です。この時期には、ギリシア神話もオリエント神話の影響を受け、新たな神々が付け加えられたり、既存の神話に新たな解釈が加えられたりしました。しかしながら、アポロドロスの「ギリシア神話」には、そうしたオリエント文化の影響はほとんど見られません。
### 2.
体系化と網羅性を重視した姿勢
アポロドロスの「ギリシア神話」は、それ以前の詩作品のような文学的な表現よりも、むしろ簡潔で淡々とした散文で書かれています。これは、アポロドロスがギリシア神話をできる限り体系化し、網羅的に記述することを目的としていたためと考えられます。彼は、様々な地域の様々な時代に伝承されてきた多様なギリシア神話を、できる限り矛盾なく整理し、一貫性のある物語としてまとめ上げようと試みました。
### 3.
先行する文献への依存
アポロドロスの「ギリシア神話」は、ヘシオドスの「神統記」やホメロスの叙事詩など、多くの先行する文献を参考にしています。彼は、これらの文献から情報を収集し、独自の解釈を加えることで、彼自身の「ギリシア神話」を構築しました。そのため、彼の作品は、先行する様々な文献の集大成としての性格も持っています。
アポロドロスの「ギリシア神話」は、ヘレニズム時代の思想的背景を色濃く反映した作品とは言えません。しかし、彼の体系化と網羅性を重視した姿勢は、ギリシア神話を後世に伝える上で大きな役割を果たしました。そして、彼の作品は、今日でもギリシア神話を理解する上で欠かせない重要な文献となっています。