## アポロドロスのギリシア神話と時間
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時間の流れ
アポロドロスの「ギリシア神話」は、天地創造からトロイア戦争後の英雄たちの帰還までを、おおむね時間的な順序に従って記述しています。これは、ヘシオドスの「神統記」に見られるような、神々の系譜を中心に据えた構成とは異なり、歴史書のように人類史を語っていくという特徴を持っています。
しかし、アポロドロスの「ギリシア神話」には、厳密な年代記のような時間概念は見られません。彼は、出来事の具体的な日付や期間を提示するのではなく、 「その後」「そして」「一方その頃」といった接続詞を用いることで、物語を時間的に接続しています。これは、古代ギリシアにおいて、現代のような精密な時間計測に基づいた歴史記述が一般的ではなかったことを反映していると考えられます。
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時間的な重複と並列
アポロドロスの「ギリシア神話」は、複数の物語が同時並行的に進行することもあります。例えば、ヘラクレスの12の功業の間に、他の英雄たちの物語が挿入されます。これは、アポロドロスの「ギリシア神話」が、単一の物語として完結したものではなく、複数の神話的伝承を編集し、再構成したものであることを示唆しています。
このような時間軸の交錯は、読者にある種の混乱をもたらす可能性もあります。しかし、これは同時に、古代ギリシアにおける時間に対する認識を反映しているとも解釈できます。古代ギリシア人にとって、時間は直線的なものではなく、循環的なものであり、神々と英雄たちの物語は、異なる時代や場所で同時に存在し得るものだったのかもしれません。