アブサロム、アブサロム！：トマス・サトペンの人物像
ウィリアム・フォークナーの作品『アブサロム、アブサロム！』は、南北戦争前後のアメリカ南部を舞台に、トマス・サトペンとその家族の没落を描いた物語です。サトペンはこの物語の中心人物であり、彼の壮大な野望とその結末は、アメリカ南部の歴史と文化を反映した深いテーマを読者に提示します。
トマス・サトペンの野望と起源
トマス・サトペンの人生は、貧しい白人としての出自から抜け出し、自身の「サトペンの百年」と呼ばれる王国を築く野望に突き動かされています。彼がこの野望を抱くようになったのは、若い頃に経験した屈辱からです。貧困から這い上がるため、サトペンはハイチでの冒険と財を築き、南部に戻ってきたときには、地位と権力を手に入れるための計画を立てていました。彼の目標は、自身の子孫に名誉ある地位を残すことであり、そのためにはあらゆる手段を使ってでも成功することを厭いませんでした。
サトペンの道徳と家族観
サトペンの道徳観は、彼の野望を達成するためには手段を選ばないという考えに基づいています。彼は自己中心的であり、他人の感情や人生を軽視する傾向にあります。これは、彼が最初の妻との間に生まれた息子を、自身の野望のために簡単に切り捨てることからも明らかです。サトペンの家族観は、彼の野望を支えるための手段として家族を見ており、深い愛情よりも、自身の計画を実現するための道具として彼らを利用していると言えます。
サトペンの没落とその象徴性
サトペンの物語は、最終的には彼の野望の破綻と家族の悲劇的な没落に終わります。彼の王国建設の野望は、南北戦争という外部からの衝撃と、内部からの道徳的、感情的な崩壊によって崩れ去ります。サトペンの没落は、アメリカ南部の歴史の中での奴隷制度の終焉と、それがもたらした社会的変化を象徴しています。彼の人生と野望の終焉は、アメリカ南部の理想と現実の間の断絶を浮き彫りにし、フォークナーが描く世界の複雑さと矛盾を表しています。
トマス・サトペンの人物像は、野心、権力、道徳の欠如が織りなす複雑な人間性を示しており、『アブサロム、アブサロム！』の物語を通じて、アメリカ南部の歴史と文化に対する深い洞察を提供します。彼の物語は、野望がもたらす破壊的な力と、人間の道徳的選択の重要性を読者に思い起こさせます。