## アトウッドの侍女の物語に関連する歴史上の事件
アメリカのピューリタン主義
マーガレット・アトウッドのディストピア小説『侍女の物語』で描かれているギレアド共和国は、その厳格な宗教的教義や社会構造において、アメリカのピューリタン主義から大きな影響を受けています。17世紀にイギリスから北アメリカに移住してきたピューリタンは、宗教的迫害から逃れ、聖書に基づいた新しい社会の建設を目指していました。彼らは勤勉さ、道徳、神への服従を重視し、贅沢や娯楽を厳しく禁じました。女性は男性に従属し、家庭を守り、子供を産み育てることが期待されていました。
ギレアド共和国とピューリタン社会の類似点は、宗教に基づく厳格な社会秩序、女性の抑圧、個人の自由の制限など、多岐にわたります。例えば、ギレアドでは聖書の一節が歪曲して解釈され、女性は生殖能力のみに価値を置かれ、子供を産むための道具として扱われます。これは、ピューリタン社会における女性の立場、つまり、夫に従い、家庭と子育てに専念することが求められた状況と重なります。また、両社会とも、服装規定、言葉遣いの制限、娯楽の禁止など、個人の自由を著しく制限している点で共通しています。
魔女狩り
16世紀後半から17世紀にかけて、ヨーロッパやアメリカで広がった魔女狩りは、『侍女の物語』における恐怖政治や社会不安を理解する上で重要な歴史的背景を提供します。魔女とされた人々は、多くが社会の弱者や異端者であり、ねたみや恐怖から告発されるケースも少なくありませんでした。告発されると、拷問によって自白を強要され、しばしば処刑されました。
ギレアド共和国でも、反逆者や「不適合者」とみなされた人々は、見せしめとして公開処刑されるなど、恐怖によって人々を支配する様子が描かれています。これは、魔女狩りの際に、恐怖と疑心暗鬼が社会全体を覆っていた状況と重なります。また、魔女狩りでは、女性が男性支配に対する脅威とみなされ、標的にされることが多かった点は、ギレアドにおける女性の抑圧と関連づけて考えることができます。
ルーマニアのチャウシェスク政権下における出産政策
1960年代後半、ルーマニアのニコラエ・チャウシェスク大統領は、人口増加政策の一環として、人工妊娠中絶と避妊を禁止しました。この政策は、女性に対する厳しい統制を伴い、妊娠の有無を監視するために、秘密警察による密告や強制的な婦人科検診が行われました。その結果、多くの女性が望まない妊娠を強いられ、貧困や劣悪な衛生環境の中で出産を余儀なくされ、新生児の死亡率も上昇しました。
ギレアド共和国の人口政策は、チャウシェスク政権下のルーマニアと多くの点で類似しています。ギレアドでは、環境汚染によって出生率が低下したため、子供を産める女性は「侍女」として司令官の家に送り込まれ、妊娠と出産を強制されます。これは、ルーマニアで女性が自らの身体の自由を奪われ、国家の政策のために出産を強要された状況と重なります。
これらの歴史上の事件は、『侍女の物語』のテーマである全体主義、女性の抑圧、生殖の政治化などを理解するための重要な視点を提供しています。アトウッドは、歴史上の事件を参考にしながら、現代社会に潜む危険性を浮き彫りにし、我々に警鐘を鳴らしているのです。