アトウッドの侍女の物語と人間
人間の弱さ
マーガレット・アトウッドのディストピア小説「侍女の物語」では、環境破壊が進み、出生率が激減した近未来のアメリカを舞台に、全体主義国家ギレアドが誕生します。ギレアドでは、肥沃な女性である”侍女”たちは、司令官と呼ばれる支配階級の男性の子を産むために搾取されます。主人公のオフレッドも、そうした侍女の一人です。
作中では、権力構造、自由の喪失、抑圧によるアイデンティティの崩壊といったテーマを通して、人間の弱さが浮き彫りになります。オフレッドは、ギレアド以前の自由な世界での記憶と、現在の抑圧された現実との間で葛藤します。彼女は、愛する家族や友人から引き離され、名前を奪われ、”オフレッド”という、単なる”所有物”を示す名前を与えられます。
抵抗と希望
過酷な状況下でも、人間は希望を捨て去ることはありません。「侍女の物語」では、オフレッドのように、抑圧に抵抗し、自由と尊厳を求める人々の姿が描かれています。地下組織”メイデイ”の存在は、たとえそれがどれほど小さく、危険に満ちたものであっても、希望の光を象徴しています。
オフレッド自身も、日記をつけることや、ニックとの禁断の愛を通して、自己の存在を証明しようとします。これらの行為は、彼女にとって、人間としての尊厳を保つためのささやかな抵抗であり、希望の源泉となっています。
人間の複雑さ
「侍女の物語」は、善と悪、加害者と被害者といった単純な二項対立で割り切れない人間の複雑さを描き出しています。例えば、侍女を監視する立場にある”アント”たちは、一見、抑圧に加担する存在として描かれています。しかし、彼女たちもまた、ギレアドの体制によって自由を奪われた女性であり、複雑な感情を抱えています。
また、ギレアドの思想に心酔しているように見える登場人物の中にも、心の奥底に葛藤や疑問を抱えている様子が描かれています。こうした描写は、人間が置かれた状況や立場によって、その行動や思考が大きく左右されることを示唆しています。