アトウッドのペネロピアドを面白く読む方法
ホメロスとの対比を楽しむ
『ペネロピアド』は、ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』を、主人公オデュッセウスの妻ペネロペの視点から大胆に読み替えた作品です。ホメロスの描いたペネロペは、貞淑で受動的な女性として描かれていますが、アトウッドはペネロペに生き生きとした声を与え、彼女の知性、したたかさ、そして抑圧された感情を鮮やかに描き出しています。
『ペネロピアド』を読む際には、ホメロスの『オデュッセイア』を念頭に置きながら、アトウッドが元の物語のどの部分をどのように再解釈しているのか、ペネロペの視点が加わることで物語がどのように変化するのかに注目すると、より深く楽しむことができます。例えば、オデュッセウスの英雄的な冒険譚の裏側で、ペネロペがいかにして王国を守り、狡猾な求婚者たちをかわし、我が子を守り抜いたのか。アトウッドは、ホメロスが語り残した空白をペネロペ自身の言葉で埋め、男性中心的な英雄叙事詩に新たな光を当てています。
多様な語り口とユーモアに注目する
本作は、ペネロペ自身の回想と、彼女の侍女たちの合唱による物語という二重構造で進んでいきます。ペネロペの語りは知性と皮肉に富み、一方、侍女たちの合唱は時にコミカルに、時に哀愁を帯びながら、物語に奥行きを与えています。特に、ギリシャ悲劇のコロスを彷彿とさせる侍女たちの合唱は、ペネロペの心の内を代弁するだけでなく、当時の女性たちの置かれた立場や、権力構造における抑圧を浮き彫りにする役割も担っています。
アトウッドは、シリアスなテーマを扱いながらも、ウィットに富んだユーモアを随所に散りばめています。皮肉や風刺を交えながら語られるペネロペの言葉は、私たち読者を笑わせると同時に、現代社会にも通じる問題を提起しています。
フェミニズム的視点から読み解く
アトウッドは、フェミニズム文学の旗手として知られる作家です。『ペネロピアド』は、古典文学をフェミニズムの視点から読み解き、現代に蘇らせた作品と言えるでしょう。アトウッドは、ペネロペや侍女たちの視点を通して、男性中心社会における女性の抑圧、性差別、沈黙を強いられる女性の苦悩を描き出しています。
ペネロペが、知性と機転を駆使して困難な状況を生き抜く姿は、現代の女性たちにも勇気を与えてくれるでしょう。また、侍女たちの合唱は、歴史の中で埋もれてきた女性たちの声を代弁し、彼女たちの存在に光を当てています。