## アウグスティヌスの神の国を深く理解するための背景知識
アウグスティヌスの人生と時代背景
アウグスティヌス(354年~430年)は、ローマ帝国末期の北アフリカで生まれ、キリスト教思想に多大な影響を与えた神学者、哲学者です。彼の生涯は、ローマ帝国の衰退とキリスト教の隆盛という激動の時代と重なります。
アウグスティヌスが生まれた時代、ローマ帝国はすでに衰退期に入っていました。ゲルマン民族の侵入や内部対立、経済の疲弊など、さまざまな問題を抱えていました。395年には東西に分裂し、西ローマ帝国は476年に滅亡を迎えます。このような社会不安の中で、キリスト教は人々の心の拠り所として急速に広まっていきました。313年のミラノ勅令によってキリスト教が公認されると、国教化への道を歩み始め、380年にはテオドシウス1世によってローマ帝国の国教となります。
アウグスティヌス自身も、放蕩の青年時代を経て、33歳でキリスト教に改宗しました。その後、司祭、司教となり、キリスト教思想の発展に尽力しました。彼の思想は、プラトン哲学、新プラトン主義、マニ教、キリスト教など、さまざまな思想の影響を受けて形成されました。
ローマ帝国の衰退とキリスト教
ローマ帝国の衰退とキリスト教の隆盛は、密接に関係しています。ローマ帝国の伝統的な多神教は、国家の権威と結びついていましたが、帝国の衰退とともにその権威も失墜していきました。一方、キリスト教は、民族や身分を超えた普遍的な教えを説き、人々に希望を与えました。特に、来世における救済という考え方は、現世における苦しみや不安に喘ぐ人々にとって大きな魅力でした。
しかし、キリスト教の隆盛は、ローマ帝国の伝統的な価値観との衝突も生み出しました。キリスト教は唯一神を信仰し、皇帝崇拝を拒否しました。そのため、キリスト教徒はしばしば迫害の対象となりました。
410年に西ゴート族によってローマが略奪されたことは、ローマ市民に大きな衝撃を与えました。キリスト教徒の中には、ローマの滅亡はキリスト教の罰であると考える者もいました。このような状況の中で、アウグスティヌスは「神の国」を執筆し、キリスト教とローマ帝国の関係、歴史における神の摂理などを論じました。
「神の国」の概要
「神の国」は、全22巻からなる大著で、アウグスティヌスの主著の一つです。ローマ略奪を契機に執筆が開始され、完成までに15年以上の歳月を要しました。
この書物では、歴史における神の摂理、地上における「神の国」と「地の国」の対立と共存、人間の自由意志と神の恩寵、永遠の生命など、さまざまなテーマが論じられています。
アウグスティヌスは、「神の国」と「地の国」を対比させながら歴史を解釈します。「神の国」は、神を愛し、神の意志に従って生きる人々の共同体であり、永遠の幸福を求めます。「地の国」は、自己愛を第一とし、世俗的な欲望に生きる人々の共同体であり、一時的な快楽や権力を求めます。
アウグスティヌスは、この二つの国は歴史の中で混在し、葛藤しながらも、最終的には「神の国」が勝利すると主張します。そして、キリスト教徒は「地の国」の誘惑に惑わされることなく、「神の国」の市民として生きるべきだと説きます。
「神の国」の影響
「神の国」は、キリスト教思想に多大な影響を与えました。特に、歴史哲学、政治思想、倫理思想などに大きな影響を与えました。
歴史哲学においては、「神の国」と「地の国」という二つの視点から歴史を解釈するという考え方が、後の歴史家に大きな影響を与えました。政治思想においては、「地の国」における国家権力は、神の意志に従う限りにおいて正当化されるという考え方が、中世ヨーロッパの政治思想に影響を与えました。倫理思想においては、自己愛の克服と神への愛の実践という考え方が、キリスト教倫理の重要なテーマとなりました。
「神の国」は、現代においても、宗教と政治の関係、人間の自由と運命、善と悪の問題など、さまざまなテーマを考える上で重要な示唆を与えてくれます。
アウグスティヌスの思想における重要な概念
アウグスティヌスの思想を理解する上で重要な概念がいくつかあります。ここでは、その中でも特に重要なものを紹介します。
* **原罪**: アダムとエヴァの disobedience によって人類にもたらされた罪。人間は生まれながらにして原罪を負っており、神の恩寵なしには救済されない。
* **神の恩寵**: 神から人間に与えられる無償の恵み。人間の自由意志だけでは救済に達することができないため、神の恩寵が必要となる。
* **予定説**: 神は、世界の創造以前から、誰が救済され、誰が滅びるかを決定しているという考え方。
* **自由意志**: 人間が自ら選択し、行動する能力。アウグスティヌスは、自由意志は神から与えられたものであり、人間は自由意志によって善を行うことも悪を行うこともできると考えた。
これらの概念は、「神の国」においても重要な役割を果たしています。例えば、原罪の概念は、「地の国」の人間がなぜ自己愛に支配され、世俗的な欲望に生きるのかを説明するのに役立ちます。また、神の恩寵の概念は、「神の国」の人間がなぜ神を愛し、神の意志に従って生きることができるのかを説明するのに役立ちます。
これらの背景知識を踏まえることで、「神の国」をより深く理解することができます。
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