## アウグスティヌスの神の国の発想
アウグスティヌスと「神の国」
アウグスティヌス(354-430年)は、キリスト教思想史において最も影響力のある神学者の一人であり、その主著『神の国』は、西洋思想史上の記念碑的著作として知られています。彼は、ローマ帝国の衰退期という激動の時代に生き、キリスト教がローマの国教として認められた後も、伝統的なローマの価値観とキリスト教信仰の調和という課題に直面していました。
「二つの国」の対比
『神の国』の中心的な概念は、「二つの国」、すなわち「神の国(Civitas Dei)」と「地の国(Civitas Terrena)」の対比です。アウグスティヌスによれば、この二つの国は、人間の異なる二つの愛に基づいて区別されます。すなわち、神を愛し、神にのみ仕えることを求める愛と、自己を愛し、被造物を神よりも愛する愛です。
前者の愛から生まれるのが「神の国」であり、後者の愛から生まれるのが「地の国」です。アウグスティヌスは、この二つの国を、目に見える政治体制や国家としてではなく、人間の心の内面に存在する霊的な実体として捉えています。
歴史における「二つの国」
アウグスティヌスは、聖書の歴史解釈に基づき、「二つの国」の対立が、人類史の始まりから現在、そして未来に至るまで続いていると主張します。彼は、アダムとエバの堕罪を、人類が「神の国」から離反し、「地の国」へと転落した象徴的な出来事として捉えます。
アウグスティヌスは、『神の国』の中で、旧約聖書やローマ帝国の歴史を、「二つの国」の対立と葛藤の観点から解釈しています。彼は、ローマ帝国の繁栄もまた、「地の国」の一時的勝利に過ぎないと考えていました。
「神の国」への希望
アウグスティヌスは、歴史の終末において、キリストの再臨と共に「神の国」が完全に実現すると信じていました。彼は、「地の国」の勝利は一時的なものであり、最終的な勝利は「神の国」に約束されていると主張します。
アウグスティヌスにとって、「神の国」は、単なる来世における希望ではなく、現世におけるキリスト者の生き方にも影響を与える重要な概念でした。彼は、キリスト者は「地の国」の価値観に染まることなく、「神の国」の市民として、愛と正義に基づいた生活を送るべきだと説いています。