## アウグスティヌスの告白から学ぶ時代性
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ローマ帝国末期の不安とキリスト教
アウグスティヌスが『告白』を著したのは、4世紀末から5世紀初頭にかけての激動の時代、まさにローマ帝国末期にあたります。ゲルマン民族の大移動が始まり、かつて栄華を誇ったローマ帝国は、内側から腐敗し、外側からは蛮族の侵入に脅かされ、崩壊の危機に瀕していました。人々の心には、先行きの見えない不安と、古い価値観が崩れゆくことへの絶望感が広がっていたと考えられます。
このような時代背景の中で、キリスト教は、伝統的なローマの多神教とは異なる価値観、すなわち「来世における永遠の命」や「罪からの救済」といった、人々の不安を癒やす希望を提供するものでした。アウグスティヌス自身もまた、マニ教や新プラトン主義といった様々な思想に彷徨った後、最終的にキリスト教に帰依し、自身の罪を告白し、神の愛に救済を求めました。
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古代末期の知識人の苦悩
アウグスティヌスは、古典古代の高度な教養を身につけた知識人でした。彼は、当時の知識人が共有していた、ギリシア哲学の影響を強く受けた理性主義的な思想と、キリスト教の教義との間で葛藤を抱えていました。理性によって世界を理解しようとする姿勢と、信仰によって神に帰依しようとする姿勢の矛盾に、アウグスティヌスは深く苦悩します。
『告白』の中で、アウグスティヌスは、自身の性的な罪や、神への信仰に至るまでの葛藤を赤裸々に語っています。これは、古代の倫理観では考えられない、非常に個人的かつ内面的な告白でした。この告白は、当時の知識人が抱えていた苦悩を象徴すると同時に、キリスト教が個人の内面性に深く関わる宗教であることを示しています。
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古代から中世への転換点
アウグスティヌスは、『告白』の中で、時間や記憶、意志の自由といった哲学的な問題についても深く考察しています。彼は、プラトン哲学の影響を受けながらも、独自の思想を展開し、後の西洋思想に多大な影響を与えました。
アウグスティヌスの思想は、古代の哲学的伝統とキリスト教の教義を融合させたものであり、古代から中世への転換点に位置づけられます。彼の著作は、その後千年以上にわたって、西洋思想の根幹をなすものとして、多くの人々に読み継がれることになります。