## ヴォルテールの哲学辞典と人間
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ヴォルテールの思想と人間観
「哲学辞典」は、フランス啓蒙主義を代表する思想家ヴォルテールが、1764年に匿名で発表した書物です。ただし、初版は「哲学用語辞典」というタイトルでした。 この辞典は、アルファベット順に配列された約70の項目からなり、伝統的な宗教や迷信、社会の不条理などを、鋭い風刺と皮肉を交えながら批判しています。
ヴォルテールは、人間は理性によってのみ真理や幸福に到達できると信じていました。彼は、盲目的な信仰や偏見、不合理な伝統などを激しく批判し、人間の理性に基づいた自由な思考と、寛容な社会の実現を訴えかけました。
「哲学辞典」では、人間の不完全さや愚かさ、悪徳などが、様々な角度から描かれています。「魂」「自由」「宗教」「戦争」など、人間に関する多様なテーマが取り上げられ、当時の社会通念や権威に対する痛烈な批判が展開されています。
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「哲学辞典」に見る人間像
「哲学辞典」には、特定の人間像が明確に提示されているわけではありません。しかし、様々な項目を通して、ヴォルテールが人間をどのように見ていたかを窺い知ることができます。
例えば、「寛容」の項目では、宗教的な不寛容を批判し、異なる意見や立場の人々とも共存できる社会の重要性を説いています。これは、人間には理性と寛容さをもって互いに理解し合う可能性があると信じていたからこそでしょう。
一方、「戦争」の項目では、人間の愚かさや残虐性が露骨に描かれています。戦争は、権力者たちの野心や、人々の無知によって引き起こされるものであり、理性的な解決とは程遠いものとして描かれています。
このように、「哲学辞典」では、人間の理性と可能性への希望、そして愚かさや悪徳に対する失望が、複雑に交錯しています。
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「哲学辞典」の影響
「哲学辞典」は、当時の社会に大きな衝撃を与え、発禁処分を受けながらも、広く読まれました。人間の理性と自由を強く訴えかける内容は、フランス革命を含むその後の社会変革運動にも大きな影響を与えたと言われています。
また、「哲学辞典」は、単なる思想書にとどまらず、文学作品としても高く評価されています。ウィットに富んだ表現、風刺の効いた文章は、現代の読者にとっても魅力的であり、人間の普遍的な問題を改めて考えさせてくれます。