ヴォルテールの哲学書簡の思想的背景
イギリス思想の影響
ヴォルテールは1726年から約2年間イギリスに亡命し、そこで経験したイギリス社会の自由な気風や思想に大きな影響を受けました。特に、ロックの経験論、ニュートンの自然科学、そして立憲君政と宗教的寛容の精神は、「哲学書簡」の根底をなす重要な要素となっています。
ロックの経験論
ロックは、人間の知識はすべて経験に由来すると主張しました。これは、生まれながらにしてあらゆる知識を持つとするデカルトの「生得観念」を批判するものでした。ヴォルテールはロックの経験論に共鳴し、「哲学書簡」においても、理性に基づいた経験的な認識の重要性を説いています。
ニュートンの自然科学
ニュートンは、万有引力の法則を発見し、近代科学の基礎を築いた人物です。彼の著作「プリンキピア」は、合理的思考と観察に基づいた科学的方法を示し、当時のヨーロッパ思想界に大きな衝撃を与えました。ヴォルテールはニュートンの自然科学を高く評価し、「哲学書簡」においても、自然現象を理性と経験に基づいて説明しようと試みています。
立憲君政と宗教的寛容
イギリスでは、1688年の名誉革命によって立憲君政が確立され、市民の自由と権利が保障されていました。また、宗教に関しても寛容な政策がとられ、カトリック以外のキリスト教徒は信仰の自由を認められていました。ヴォルテールは、フランスの絶対王政と宗教的不寛容を批判し、イギリスの自由な社会体制を理想としていました。
啓蒙主義の思想
「哲学書簡」は、18世紀フランスの啓蒙主義を代表する作品の一つとされています。啓蒙主義は、理性に基づいて社会を改革しようとする思想運動で、その中心的なテーマは「理性」「自由」「進歩」でした。ヴォルテールは、啓蒙主義の中心人物の一人として、迷信や偏見を批判し、理性と寛容に基づいた社会の実現を目指しました。