## ヴィゴツキーの思考と言語の案内
思考と言語の関係性についての従来の見解
ヴィゴツキーは、自身が生きた時代の思考と言語の関係性についての議論を概観するところから論を始めています。彼は、当時の主要な見解を大きく2つの立場に分類しました。
1. 思考と言語は独立した過程であるとする立場
この立場は、思考と言語をそれぞれ独立した発達過程を持つ別々の機能として捉えます。思考は言語化される以前から存在し、言語は単に思考を表現するための手段に過ぎないと考えます。代表的な論家として、言語学者ヴィルヘルム・ヴントなどが挙げられます。
2. 思考と言語は一体不可分であるとする立場
この立場は、思考と言語は不可分な関係にあり、互いに影響し合いながら発達すると考えます。思考は言語によって形成され、言語は思考を表現するだけでなく、思考そのものを方向付けるとされます。代表的な論家として、言語学者ジャン・ピアジェなどが挙げられます。
ヴィゴツキーの主張：思考と言語の相互作用
ヴィゴツキーは、上記のいずれの見解も、思考と言語の関係性を十分に捉えているとは考えませんでした。彼は、思考と言語はそれぞれ独自の起源を持ちながらも、発達過程において相互に影響し合い、新たな高次機能を生み出すという、より動的な関係性を主張しました。
発達の起点となる「自然的機能」と「文化的機能」
ヴィゴツキーは、思考と言語の起源をそれぞれ「自然的機能」に求めました。思考の自然的機能は、周囲の世界を感覚的に捉え、欲求に基づいて行動する能力、言語の自然的機能は、感情を表現するための音声発声の能力です。
しかし、人間は社会的相互作用を通じて、これらの自然的機能を「文化的機能」へと転換させていきます。文化的機能とは、道具や記号を用いることで、自身の行動や思考を制御し、他者と意思疎通を図る高度な能力を指します。
発達における重要な概念：内的発話
ヴィゴツキーは、思考と言語の発達において、「内的発話」が重要な役割を果たすと考えました。内的発話とは、子どもが独り言のように自身に対して語りかけ、思考を整理したり、行動を調整したりする現象です。
内的発話は、最初は外部に向けられた言語である「社会的発話」から派生し、徐々に内面化され、最終的には「純粋な思考」へと転化していくと考えられています。
「最近接発達領域」における言語の役割
ヴィゴツキーは、「最近接発達領域」という概念を提唱しました。これは、子どもが一人でできることと、大人の助けがあればできることの間に存在する領域を指します。
ヴィゴツキーは、子どもがこの領域にある課題に挑戦する際に、大人との言語によるやり取りが重要な役割を果たすと考えました。大人との対話を通じて、子どもは自身の思考を整理し、新たな理解を構築していくことができます。