ワイルドの真面目が肝心の対極
道徳論（アダム・スミス）
アダム・スミスの『道徳感情論』は、人間の本性を利己心ではなく共感と道徳的感情に置くことで、オスカー・ワイルドの皮肉的な風刺劇「真面目が肝心」で示された社会規範や表面的な道徳観とは対照的な視点を提示しています。この著作においてスミスは、人間には生まれつき他者の幸福を思いやる能力があり、それが道徳的行動の基盤となると主張しています。
「真面目が肝心」における表面性
ワイルドの戯曲では、登場人物たちは社会的な体裁やうわべだけの「真面目さ」を重視し、真実の愛や幸福よりも外聞を気にかけます。彼らは偽りのアイデンティティを作り上げ、ウィットに富んだ言葉遊びや皮肉を用いて、社会の偽善を露呈します。
スミスの共感の概念
一方、スミスは『道徳感情論』の中で、人間は他者の立場に立って物事を理解し、共感することができると論じています。彼は、この「共感」こそが道徳判断の根底にあり、社会秩序を維持する上でも重要な役割を果たすと考えていました。
社会構造における差異
ワイルドの作品は、ヴィクトリア朝社会の厳格な道徳規範と階級制度を風刺的に描いています。登場人物たちの行動は、社会的な圧力や期待によって大きく制限されています。一方、スミスの著作は、個人の道徳的判断と責任を強調し、社会が個人の自由と幸福を促進する形で機能すべきであるという啓蒙主義的な思想を反映しています。
このように、『道徳感情論』と「真面目が肝心」は、人間の本性、道徳の役割、そして社会における個人の位置付けについて、対照的な視点を提示しています。ワイルドは皮肉と風刺を用いて社会の偽善を暴き出す一方で、スミスは共感と道徳的感情を人間の行動の基盤として捉え、より理想的な社会のあり方を追求しました。