ロンブローゾの犯罪人の位置づけ
ロンブローゾの生きた時代背景とその主張
チェーザレ・ロンブローゾ(1835-1909)は、19世紀後半のイタリアで活躍した精神科医であり、犯罪人類学の創始者として知られています。彼は、当時のヨーロッパで台頭していた実証主義の影響を強く受け、人間の行動や性質は、観察・計測・統計といった科学的方法によって解明できると考えていました。
ロンブローゾは、長年にわたり、刑務所の囚人や精神病院の患者を対象に、身体的特徴と犯罪傾向の関連性について研究を行いました。そして、1876年に出版した著書『犯罪人論』の中で、「生まれながらの犯罪人」という概念を提唱しました。
彼によれば、「生まれながらの犯罪人」は、先祖返りによって原始的な人類の特徴を受け継いでおり、通常の社会生活に適応できないため、犯罪を犯しやすいとされました。そして、大きな顎、発達した眉弓、非対称な顔立ちなど、具体的な身体的特徴を「犯罪者の烙印」として挙げました。
ロンブローゾの理論が受け入れられた理由
ロンブローゾの「生まれながらの犯罪人」という概念は、当時の社会状況と合致する面があり、多くの支持を集めました。
19世紀後半のヨーロッパは、産業革命の影響で都市化が進み、貧困や犯罪の増加が社会問題となっていました。人々は、こうした社会不安の原因を科学的に説明することを求め、ロンブローゾの理論は、犯罪の原因を社会構造ではなく、個人の生物学的要因に求めるものであり、当時の社会に受け入れられやすかった側面があります。
また、当時のヨーロッパでは、ダーウィンの進化論の影響が大きく、人間の行動や性質にも進化論的な視点から説明しようとする風潮がありました。ロンブローゾの理論は、犯罪者を進化の過程で取り残された存在とみなすものであり、進化論的な考え方が背景にあったとも言えます。
ロンブローゾの理論への批判と影響
しかし、ロンブローゾの理論は、偏見や差別を助長する危険性も孕んでおり、多くの批判も浴びました。
彼の研究は、偏ったサンプルに基づいており、科学的な厳密性に欠けていたこと、身体的特徴と犯罪の因果関係を証明するものではなく、相関関係を指摘したに過ぎないこと、環境や社会的な要因を軽視していたことなどが指摘されました。
ロンブローゾの理論は、20世紀に入ると、社会学や心理学の発展に伴い、科学的な根拠を欠くものとして退けられていきました。しかし、彼の研究は、犯罪の原因を探る上で、生物学的要因に着目するきっかけとなり、後の犯罪学、 criminology、生物学的犯罪学に大きな影響を与えたと言えます。
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