ロストフツェフのヘレニズム世界社会経済史の表象
古代史研究における記念碑的作品
ミハイル・イワノビッチ・ロストフツェフの『ヘレニズム世界社会経済史』(原題: The Social and Economic History of the Hellenistic World)は、1941年に出版された、ヘレニズム時代(紀元前4世紀末から紀元前1世紀)の社会経済状況を包括的に分析した大著です。
ロストフツェフの視点と解釈
ロストフツェフは、ヘレニズム時代を、アレキサンダー大王の東方遠征によって生み出された、ギリシャ文化とオリエント文化が融合した新しい文明が花開いた時代として捉えました。彼は、従来の政治史中心の見方とは異なり、経済活動や社会構造の変化に焦点を当て、ヘレニズム社会のダイナミズムを描き出しました。
都市と経済の役割
ロストフツェフは、ヘレニズム時代における都市の役割を重視しました。彼は、アレクサンドリアやアンティオキアといった新しい都市が、商業や文化の中心地として繁栄し、経済発展を牽引したと論じました。また、貨幣経済の発展、交易の拡大、農業技術の進歩など、当時の経済活動についても詳細に分析しました。
社会階層と文化
ロストフツェフは、ヘレニズム社会を、王や貴族、商人、職人、農民など、多様な階層からなる複雑な社会として描きました。彼は、ギリシャ人とオリエント人の間の文化的交流が、新しい芸術や思想を生み出した一方で、社会的な緊張や対立も引き起こしたことを指摘しました。
資料と方法
ロストフツェフは、碑文、パピルス文書、貨幣、考古学的遺物など、膨大な量の史料を駆使して、ヘレニズム社会の全体像を復元しようと試みました。彼は、経済学や社会学の概念を歴史研究に導入し、当時の社会経済構造を分析するための新たな視点を提供しました。