## レーニンの唯物論と経験批判論の主題
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レーニンが本書を執筆した背景と目的
1905年のロシア第一革命の敗北後、ロシア社会民主労働党内では革命路線を巡る論争が激化し、党はボリシェヴィキとメンシェヴィキに分裂しました。この際、メンシェヴィキ寄りの一部知識人の間で、オーストリアの物理学者エルンスト・マッハの哲学に影響を受けた「マッハ主義」が広まりました。マッハ主義は、感覚経験のみを重視し、物質や意識の客観性を否定する主観観念論の一種とみなされました。レーニンは、このマッハ主義がマルクス主義の唯唯物論的認識論を脅かす危険な思想であるとみなし、その批判と克服のために本書を執筆しました。
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レーニンによるマッハ主義批判の内容
レーニンは本書の中で、マッハ主義を「反动的哲学」と厳しく批判します。マッハ主義は感覚経験のみを重視することで、物質の客観的な存在を否定し、最終的には世界を個人の感覚の集合体としか見なさなくなるとレーニンは主張します。このような主観観念論は、必然的に社会の物質的矛盾を無視し、革命運動を否定する論理へとつながるとレーニンは批判しました。
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レーニンによる唯物論的認識論の擁護
レーニンはマッハ主義批判と並行して、マルクスの唯物論的認識論を擁護します。レーニンは、人間の意識は物質世界を反映したものであると主張し、感覚経験は物質世界を認識するための手段であると位置付けます。そして、実践を通して感覚経験を積み重ね、客観的な認識を獲得していくことが重要だとしました。
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本書の構成と特徴
本書は、マッハ主義の代表的な論者であるボグダーノフ、ユシケヴィチ、バザーロフらの著作を引用しながら、その誤りを具体的に批判していくという構成をとっています。また、レーニンは哲学だけでなく、当時の自然科学の最新の成果を引用し、唯物論の正当性を主張しています。特に、原子物理学の進歩は、それまで不可視であった物質の構造を明らかにしつつあり、レーニンはこれを物質の客観性の証明として高く評価しました。
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本書の歴史的意義
「唯物論と経験批判論」は、レーニンの主要な哲学著作の一つとして知られています。本書は、マッハ主義という特定の思想潮流を批判しただけでなく、マルクス主義の唯物論的認識論を体系的に整理し、発展させようとした点で重要な著作と言えるでしょう。