## リストの政治経済学の国民的体系
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リストの政治経済学における国民経済の意義
フリードリヒ・リストは、19世紀前半に活躍したドイツの経済学者です。当時のドイツは、イギリスの産業革命の成功例を目の当たりにし、自国の経済発展を模索していました。リストは、イギリス古典派経済学の自由貿易主義を批判し、ドイツの置かれた状況に適した経済理論を構築しようと試みました。
リストは、国家を単なる個人の集合体として捉えるのではなく、「歴史的・文化的・社会的紐帯によって結びついた有機体」として捉えました。そして、国家の経済活動は、単に個人の利益の追求だけでなく、国家全体の富と力の増大を目指すべきであると主張しました。これが、リストの経済学における「国民経済」の中心的な考え方です。
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生産力の発展と経済段階論
リストは、国民経済の目的を「生産力の発展」に求めました。生産力とは、単に物質的な生産能力だけでなく、知識、技術、教育、制度、文化など、広義の生産要素を含む概念です。リストは、生産力の発展こそが、国家の富と力を増大させるための基盤となると考えました。
また、リストは、国民経済の発展段階を、未開社会、牧畜社会、農業社会、農業工業社会、工業社会の五段階に分類しました。そして、それぞれの段階に応じて適切な経済政策が異なることを主張しました。例えば、農業国がいきなり自由貿易に参入すると、先進工業国との競争に敗れ、経済的に従属してしまうと警告しました。
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保護貿易と育成関税の意義
リストは、後進国が先進国に追いつき、経済的に自立するためには、一時的な保護貿易が必要であると主張しました。そして、国内産業を保護し、育成するための関税政策を「育成関税」と呼びました。育成関税は、国内産業が国際競争力を付けるまでの間、一時的に課されるものであり、最終的には自由貿易に移行することを目標としていました。
リストは、保護貿易はあくまでも手段であり、目的はあくまで自国の生産力の発展であることを強調しました。そして、保護貿易によって国内産業が独占状態に陥り、競争力を失うことを避けるためには、国内産業の育成にも力を入れる必要があると主張しました。
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国民経済と国際経済の関係
リストは、自由貿易は最終的に人類全体の幸福に貢献すると考えていましたが、それはあくまでもすべての国が同等の経済力を持った場合に限られると考えていました。現実には、国ごとに発展段階や経済力が異なるため、自由貿易は先進国の利益に偏り、後進国を不利な立場に追い込む可能性があると指摘しました。
リストは、真の自由貿易は、各国がそれぞれの経済発展段階に応じて適切な政策を採用し、経済力を均衡させた上で実現されるべきであると考えました。そして、そのための手段として、国際的な協力や協調の必要性を訴えました。