## ラシーヌのブリタニクスが扱う社会問題
###
権力と暴君性
ブリタニクスは、若きネロが権力を掌握していく過程で露わになる残忍さと、絶対的な権力が人間にもたらす腐敗を描いています。ネロは当初、賢帝クラウディウスの後継者として、ブリタニクスと対比的に、寛大で慈悲深い指導者として期待されていました。しかし、権力の座に就くとともに、その本性は歪んでいきます。
ネロは、ブリタニクスの婚約者であるジュニエに横恋みし、権力を行使して彼女を奪おうとします。この行為は、彼の権力への執着と、手段を選ばない冷酷さを象徴しています。ネロは自分の欲望を満たすためには、いかなる犠牲も厭わず、かつての恩師セネカの助言すらも無視するようになります。
###
愛と欲望の葛藤
劇は、権力闘争だけでなく、複雑な愛憎劇としても描かれています。ブリタニクスとネロ、そしてジュニエの三角関係は、愛と欲望、義務と自由意志の対立を浮き彫りにします。
ジュニエは、ブリタニクスへの愛と、ネロの権力への恐怖との間で苦悩します。彼女は、自分の愛するブリタニクスを守るために、ネロの愛を受け入れるふりをしなければなりません。このジレンマは、彼女に大きな心の葛藤をもたらします。
一方で、ネロの愛は、純粋な愛情というよりは、所有欲や征服欲に支配されています。彼はジュニエを自分の権力の象徴とみなし、彼女の心を力で支配しようとします。
###
政治と道徳の相克
ブリタニクスは、権力と道徳の対立、政治の世界における倫理の難しさも問いかけています。ネロの行動は、政治的な成功のためには、倫理や道徳を犠牲にすることも厭わないという現実を突きつけます。
ネロの家庭教師であり、良心の象徴として描かれるセネカは、ネロに道徳的な行動を説きますが、彼の言葉は権力に目がくらんだネロには届きません。この対比は、権力がいかに人間の倫理観を歪め、腐敗させるかを如実に示しています。
###
自由と抑圧
ブリタニクスは、ネロの圧政下における自由の喪失というテーマも内包しています。ネロは恐怖政治を用いて人々を支配し、反対意見を封殺しようとします。ブリタニクスは、ネロの専制政治に対する抵抗の象徴として描かれ、彼の死は自由の終焉を意味しています。
劇は、権力者の横暴に対する民衆の無力さを描き出すとともに、真の自由とは何かを問いかけています。