## ラシーヌのアンドロマックを読む前に
アンドロマックの背景について学ぶ
「アンドロマック」は、ジャン・ラシーヌによって書かれたフランス古典主義の悲劇です。1667年に初演され、トロイア戦争の余波を舞台に、ギリシャの英雄アキレスの息子ピュロス、トロイアの捕虜アンドロマック、スパルタの王女エルミオンヌ、そしてエルミオンヌに恋するオレステースといった登場人物たちの愛と復讐の物語が描かれます。
この作品をより深く理解するために、まず「アンドロマック」の背景となるトロイア戦争について知る必要があります。ホメーロスの叙事詩「イリアス」やウェルギリウスの叙事詩「アエネーイス」を読むことで、トロイア戦争のあらすじ、主要な登場人物、そしてその後のギリシャとトロイアの運命について学ぶことができます。特に、「イリアス」では、アキレスとヘクトル、そしてアンドロマックの関係性が描かれており、「アンドロマック」を理解する上で重要な手がかりとなります。
フランス古典主義演劇の特徴を理解する
「アンドロマック」は、17世紀フランスで栄えた古典主義演劇の代表的な作品です。古典主義演劇は、古代ギリシャ・ローマの演劇を規範とし、三単一律（時間の単一性、場所の単一性、 Handlung の単一性）や、登場人物の身分に応じた言葉遣い、高尚なテーマなどを特徴としています。
「アンドロマック」を読む前に、これらの特徴を理解しておくことで、作品の構成や登場人物の言動、そしてラシーヌが目指した悲劇の世界をより深く理解することができます。例えば、三単一律を意識することで、劇的な緊迫感や登場人物たちの心理描写がより際立って見えるでしょう。また、登場人物の身分や立場、そして彼らが置かれた状況を考慮することで、言葉の裏に隠された感情や葛藤を読み解くことができるようになります。
登場人物の関係性を把握する
「アンドロマック」は、愛憎渦巻く複雑な人間関係を描いた作品です。登場人物たちの関係性を事前に把握しておくことで、物語をスムーズに理解することができます。登場人物相関図を作成したり、それぞれの立場や感情を簡単にまとめたりするのも有効な方法です。
特に、「アンドロマック」では、登場人物たちの過去の因縁や愛憎関係が複雑に絡み合っています。例えば、アンドロマックは夫であるヘクトルをアキレスに殺され、その息子アステュアナクスもギリシャ人によって殺される運命にあり、アキレスの息子であるピュロスに敵意を抱いています。また、エルミオンヌはピュロスに恋焦がれていますが、ピュロスはアンドロマックに心を奪われており、それがエルミオンヌの嫉妬と狂気を加速させていきます。