## ヤコブソンの言語学と詩学の思考の枠組み
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言語の六つの機能
ロシア生まれの言語学者、文学理論家であるロマン・ヤーコブソン(Roman Jakobson, 1896-1982)は、彼の論文「言語学と詩学」(Linguistics and Poetics, 1960)において、あらゆる言語活動に内在する六つの機能を提示しました。この機能モデルは、発信者、受信者、文脈、メッセージ、接触、コードというコミュニケーションにおける六つの要素に対応しており、それぞれの要素が優勢となることで特定の言語機能が前面に押し出されると考えられています。
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各機能とその詳細
以下に、ヤーコブソンが提示した六つの機能とその詳細を記します。
* **指示的機能(Referential Function)**: 文脈(Context)に関わる機能。客観的な情報を伝達することに重点が置かれ、文脈における対象や状況を指し示す機能を果たします。
例:今日の天気は晴れです。
* **感情表出機能(Emotive Function)**: 発信者(Addresser)に関わる機能。話し手の感情、態度、価値観などを表現することに重点が置かれ、喜び、悲しみ、怒りなどの感情を直接的に表現します。
例:わあ、素晴らしい!
* **美的機能(Poetic Function)**: メッセージ(Message)に関わる機能。メッセージそのものの形式的な美しさ、音、リズム、イメージなどに重点が置かれ、詩、文学作品、広告などに見られます。
例:指輪をもらった。嬉しい。結婚しよう。 vs 指輪をもらった。結婚しよう。嬉しい。
* **呼応機能(Conative Function)**: 受信者(Addressee)に関わる機能。聞き手に行動を促したり、特定の反応を引き出すことに重点が置かれ、命令文、依頼文、質問文などが該当します。
例:このレポートを明日までに提出してください。
* **メタ言語機能(Metalingual Function)**: コード(Code)に関わる機能。言語自体を分析したり、定義したりすることに重点が置かれ、辞書や文法書などが代表的な例です。
例:「りんご」は果物の名前です。
* **交話機能(Phatic Function)**: 接触(Contact)に関わる機能。コミュニケーションの開始、維持、終了など、コミュニケーションのチャネルを確立することに重点が置かれ、挨拶や軽い会話などが該当します。
例:こんにちは。お元気ですか?
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六つの機能の相互作用
ヤーコブソンは、これらの機能は単独で働くことは少なく、あらゆる言語活動において複数、あるいは全ての機能が同時に作用していると主張しました。ただし、それぞれの機能の優勢度は状況や文脈によって異なり、特定の機能が他の機能よりも強調されることで、コミュニケーションの目的や効果が変化すると考えられます。