## メンガーの国民経済学原理の価値
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**経済学における主観的価値の導入**
メンガーは本書の中で、経済学の中心に**主観的価値**の概念を据えました。これは、財やサービスの価値はそのものの客観的な特性によって決まるのではなく、それを必要とする人にとっての**主観的な評価**によって決定されるという考え方です。
従来の古典派経済学では、労働価値説に基づき、財の価値はそれを生産するために必要な労働量によって決まるとされてきました。しかし、メンガーはダイヤモンドと水の逆説を例に挙げ、この説の問題点を指摘しました。ダイヤモンドは水よりも希少で生産に多くの労働を要しますが、人間の生存にとって不可欠な水の方が一般的に高い価値を持つのはなぜでしょうか。メンガーはこの問いに対し、価値は需要と供給の関係、そして最終的には個人が感じる**主観的な効用**によって決定されると説明しました。
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**限界効用理論の確立**
メンガーは主観的価値の概念に基づき、**限界効用**の理論を体系的に展開しました。限界効用とは、財を1単位追加的に消費することによって得られる満足度のことです。彼は、財の価値はその財の**総効用**ではなく、消費者が最後に消費する1単位から得られる**限界効用**によって決まると主張しました。
これは、財の保有量が増えるにつれて、追加的な1単位から得られる満足度は次第に減少していくという**限界効用逓減の法則**に基づいています。例えば、喉が渇いている人が水を飲む場合、最初の1杯は非常に高い満足度を得られますが、2杯目、3杯目と飲むにつれて、追加的に得られる満足度は低下していきます。
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**方法論的個人主義の提唱**
メンガーは経済現象を分析する上で、**方法論的個人主義**を重視しました。これは、社会や経済全体を理解するためには、個人の行動とその背後にある動機を分析することが不可欠であるという考え方です。
彼は、個人がそれぞれ独自の価値観や選好を持ち、自己の効用を最大化しようと行動すると考えました。そして、市場における価格や資源配分は、このような個人の行動の集積として説明できると主張しました。これは、当時のドイツ歴史学派が主張した、社会全体の有機的な発展を重視する歴史主義的な方法論とは対照的なものでした。
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**オーストリア学派経済学の基礎**
「メンガーの国民経済学原理」は、オイゲン・フォン・ベーム=バヴェルクやフリードリヒ・フォン・ヴィーザーといった後継者を輩出し、**オーストリア学派**と呼ばれる経済学派の基礎を築きました。オーストリア学派は、主観的価値論、限界効用理論、方法論的個人主義を基盤とし、市場経済のメカニズムや政府の役割について独自の分析を行いました。
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**現代経済学への影響**
メンガーの「国民経済学原理」は、現代経済学の重要な源流の一つとされています。特に、ミクロ経済学における需要曲線の導出や価格理論の発展に大きく貢献しました。彼の主観的価値論は、現代経済学においても消費者行動理論の中核をなす考え方となっています。