## メインの古代法の批評
メインの主張とその背景
ヘンリー・ジェームズ・サマセット・メイン（1822-1888）は、イギリスの法学者、歴史家であり、古代社会、特にローマ法、初期のイギリス法、インドの法律に関する比較法的研究で知られています。彼の代表作『古代法』（1861年）は、法と社会の関係を探求した画期的な著作として、その後の法思想に大きな影響を与えました。
『古代法』における中心的な議論
メインは『古代法』において、古代社会から現代社会への法発展の過程を、「身份から契約へ」という有名な言葉で表現しました。彼は、古代社会では、家族や身分などの共同体的な紐帯が個人を規定し、法もまたこれらの集団的単位に基づいて運用されていたと主張しました。しかし、社会が発展し、経済活動が活発化していくにつれて、個人は従来の共同体的な束縛から解放され、自由な意思に基づく契約によって相互に関係を結ぶようになる。そして、法もまた、個人の自由と権利を保障するものへと変容していくと彼は論じました。
『古代法』に対する主な批判
メインの主張は、その後の法史学、人類学、社会学に多大な影響を与えましたが、同時に多くの批判も招きました。主な批判は以下の点が挙げられます。
* **歴史的資料の解釈**: メインの議論は、主にローマ法とヒンドゥー法に基づいていますが、これらの資料の解釈が一面的な可能性が指摘されています。例えば、古代ローマにおいても、個人主義的な法的概念や契約の概念が存在していたことが、その後の研究によって明らかになっています。
* **進化論的な歴史観**: メインの「身份から契約へ」という図式は、歴史を一方的な進歩と捉える進化論的な歴史観に基づいており、歴史の多様性や複雑さを捉えきれていないという批判があります。
* **西洋中心主義**: メインの議論は、西洋社会の法発展をモデルとしており、他の地域における法発展の多様性を十分に考慮していないという指摘があります。
現代における『古代法』
これらの批判にもかかわらず、『古代法』は、法と社会の関係を歴史的に考察した先駆的な著作として、現代においてもその意義を失っていません。特に、グローバリゼーションの進展に伴い、伝統的な共同体や家族のあり方が変化する中で、メインの議論は、現代社会における法の役割を考える上での重要な視点を提供しています。