## ミルトンの失楽園の批評
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叙事詩としての評価
ミルトンは『失楽園』を、古代ギリシャ・ローマの偉大な叙事詩であるホメロス『オデュッセイア』やヴェルギリウス『アエネーイス』に匹敵する、英語で書かれた壮大な叙事詩として構想しました。
作品は、英雄、戦争、冒険、超自然的な要素など、伝統的な叙事詩の要素を含んでいます。
しかし、キリスト教的な主題、特に人間の堕落に焦点を当てている点で、古典的な叙事詩とは一線を画しています。
『失楽園』は、壮大なスケール、高尚な文体、複雑な寓意など、叙事詩としての文学的価値が高く評価されています。
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宗教的視点からの批評
『失楽園』は聖書の創世記を題材としていますが、ミルトンは独自の解釈を加えています。
特に、サタンを反逆者として描き、彼に同情的な側面を与えたことは、多くの論争を巻き起こしました。
一部の批評家は、ミルトンがサタンを魅力的に描きすぎていると非難し、これが神に対する反逆を正当化する可能性があると主張しました。
一方で、サタンの描写は、人間の自由意志と神の摂理という複雑な問題を探求するためのものであると擁護する意見もあります。
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登場人物の描写
『失楽園』は、サタン、アダム、イブなど、印象的な登場人物で知られています。
サタンは、雄弁でカリスマ性があり、複雑な感情を持つ悪の化身として描かれています。
アダムとイブは、楽園における人間の純粋さと、罪への誘惑に屈する弱さを象徴しています。
これらの登場人物は、人間の本質、善と悪、自由意志と運命といった普遍的なテーマを探求する手段として、批評家によって様々な角度から分析されてきました。
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文体と韻律
『失楽園』は、その壮麗な文体と空白詩の使用でも知られています。
ミルトンは、ラテン語の影響を受けた複雑な構文と、豊富な語彙を用いて、作品に荘厳で叙事詩的な雰囲気を与えています。
また、韻律を排した空白詩を用いることで、自然で表現力豊かな文体を達成しています。
ミルトンの文体は、その美しさと複雑さゆえに、称賛と批判の両方を浴びてきました。
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政治的な解釈
『失楽園』は、17世紀のイングランドの政治的、宗教的な混乱の中で書かれた作品であり、当時の政治状況を反映していると解釈されることがあります。
サタンの反逆は、チャールズ1世に対するピューリタン革命になぞらえられ、天国における神と天使たちの関係は、君主制と議会との関係を暗示していると解釈されることもあります。
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フェミニズム批評
『失楽園』におけるイブの描写は、フェミニズム批評の対象となってきました。
イブは、アダムよりも劣った存在として描かれており、彼女の誘惑によって人類が楽園を追放された責任を負わされています。
一部のフェミニスト批評家は、ミルトンが男性中心的な視点でイブを描いており、女性を罪と誘惑の根源として描写していると批判しています。
一方で、イブの描写を、当時の社会における女性の立場を反映したものとして擁護する意見もあります。