マーシャルの経済学原理の批評
限界革命とマーシャル
マーシャルは、「限界革命」と呼ばれる、経済学における重要な理論的発展の中心人物とされています。限界革命は、経済主体の意思決定を分析する際に、追加的な単位(限界)に焦点を当てることを特徴としています。マーシャルは、著書「経済学原理」の中で、需要と供給の分析に限界効用と限界生産費の概念を導入し、価格決定のメカニズムを説明しようとしました。
彼の限界分析への貢献は広く認められていますが、同時に批判もされています。一部の経済学者は、マーシャルが限界概念を十分に厳密に定義しておらず、彼の分析が曖昧であると主張しています。例えば、マーシャルは限界効用逓減の法則を説明する際に、貨幣の限界効用は一定であると仮定していますが、この仮定は現実的ではありません。
部分均衡分析
マーシャルは、経済全体を分析するのではなく、個々の市場を孤立させて分析する部分均衡分析の手法を用いました。彼は、特定の市場における需要と供給の相互作用がどのように価格を決定するかを説明することに焦点を当てました。
部分均衡分析は、特定の市場のメカニズムを理解する上で有用なツールとなりえます。しかし、経済は相互に関連した多くの市場から構成されているため、部分均衡分析は現実の経済を十分に反映していないという批判もあります。ある市場の変化は、他の市場に波及効果をもたらし、経済全体に影響を与える可能性があります。
時間要素の扱い
マーシャルは、時間の経過に伴う経済変動を分析するために、短期と長期の概念を導入しました。彼は、短期では一部の生産要素が固定されているため、供給は価格の変化にあまり反応しないと主張しました。一方、長期ではすべての生産要素が可変となるため、供給は価格の変化により敏感に反応するとしました。
時間要素の分析は重要ですが、マーシャルの短期と長期の区別は必ずしも明確ではありません。実際には、生産要素の調整速度はさまざまであり、明確な線引きをすることは困難です。また、マーシャルは時間の経過に伴う技術進歩や消費者選好の変化など、他の重要な要素を十分に考慮していませんでした。
社会福祉への関心
マーシャルは、経済学を社会福祉の向上に役立てるべき学問であると考えていました。彼は、貧困の削減や生活水準の向上に関心を持ち、経済政策が社会に与える影響を分析しようと努めました。
彼の社会福祉への関心は評価されていますが、同時に、彼の分析には価値判断が含まれているという批判もあります。例えば、マーシャルは所得の不平等を減少させるために政府の介入を支持していましたが、どの程度の介入が適切であるかについては明確な基準を示していませんでした。