## マンハイムのイデオロギーとユートピアと時間
「イデオロギーとユートピア」における時間
カール・マンハイムの主著『イデオロギーとユートピア』において、時間は重要な役割を果たします。マンハイムは、人間の思考や認識は、それが成立した時代状況と切り離せないという「関係主義」的な立場をとっており、イデオロギーやユートピアもまた、特定の時間的文脈の中で理解されるべきだと考えました。
イデオロギーの時間性
マンハイムによれば、イデオロギーとは、特定の社会集団が、自身の立場や利を守るために、現実を歪曲して認識したものです。重要なのは、イデオロギーは単なる「誤った思想」ではなく、それを抱く集団にとっては、現実を理解するための「必然的な」枠組みであるということです。
このイデオロギーの「必然性」は、それが生成した時代の社会構造や権力関係に根ざしています。特定の時代状況において、支配的な地位を占める集団は、自らの支配を正当化し維持するために、特定のイデオロギーを必要とします。
しかし、時代が変化し、社会構造や権力関係が変動すると、かつては「必然性」を持っていたイデオロギーも、その力を失い、現実を説明する妥当性を失っていくとマンハイムは指摘します。
ユートピアの時間性
一方、ユートピアは、現実社会の矛盾や問題点に対する批判として、より良い未来社会のビジョンを提示するものです。ユートピアもまた、それが構想された時代の社会状況や歴史的文脈と深く結びついています。
マンハイムは、ユートピアを、既存の社会秩序をラディカルに変革しようとする「全体的ユートピア」と、既存秩序の枠内での部分的な改善を目指す「部分的ユートピア」に分類しました。
全体的ユートピアは、しばしば現実の政治運動と結びつき、社会変革の原動力となります。しかし、全体的ユートピアは、その実現のために暴力や抑圧を用いる危険性も孕んでいます。
一方、部分的ユートピアは、現実の政治や社会改革の中で、具体的な政策や制度として実現される可能性があります。
時間と知識社会学
マンハイムは、イデオロギーとユートピアの分析を通して、人間の思考や認識が、その時代の社会状況や歴史的文脈に規定されていることを示しました。
この洞察は、マンハイムの知識社会学の基盤となっています。知識社会学とは、知識や思想が、社会構造や権力関係とどのように結びついているのかを明らかにする学問です。
マンハイムは、真に客観的な知識は存在せず、全ての知識は、特定の立場や視点から見た「部分的な」ものに過ぎないと考えました。
以上のように、マンハイムの思想において、時間は、イデオロギーやユートピアの生成と変遷、そして知識と社会の関係を理解する上で、欠かせない要素となっています。