## マイモニデスの迷える者の手引きの力
ユダヤ思想における位置付け
「迷える者の手引き」は、12世紀のユダヤ教の学者、哲学者、医師であるモーシェ・ベン・マイモーン(マイモニデス)によって書かれた哲学書です。原題はアラビア語で「Dalālat al-ḥā’irīn」と言い、ヘブライ語では「מורה נבוכים」(Moreh Nevukhim)と訳されます。
この書は、伝統的なユダヤ教の教えとアリストテレス哲学との調和を試みた画期的な作品として、ユダヤ思想史において極めて重要な位置を占めています。
内容と構成
「迷える者の手引き」は、大きく分けて以下の3つのパートで構成されています。
* **第一部:** アリストテレス哲学に基づいた宇宙論や神学を展開し、聖書の擬人化された神の描写を哲学的に解釈しようと試みています。特に、神の属性に関する議論は、後のユダヤ教思想に大きな影響を与えました。
* **第二部:** 預言や神託の性質について論じ、理性と啓示の関係を考察しています。マイモニデスは、預言者も人間であり、その啓示は人間の知性を通して理解されると主張しました。
* **第三部:** 律法の目的と解釈について解説し、特に偶像崇拝の禁止やモーセの律法の意義について深く考察しています。
影響
「迷える者の手引き」は、発表当初からユダヤ教世界に大きな衝撃を与え、その後のユダヤ思想、特に理性主義的な思想潮流に多大な影響を及ぼしました。
しかし、その革新的な内容ゆえに、一部のラビからは異端視され、激しい批判の対象ともなりました。一部の写本が焚書にされたという記録も残っています。
現代における意義
「迷える者の手引き」は、現代においても、宗教と哲学、理性と啓示の関係を考える上で重要なテキストとして、多くの学者や思想家から読み継がれています。
その普遍的なテーマは、宗教や文化を超えて、現代社会における人間の在り方や倫理、信仰の問題を考える上でも示唆に富むものと言えるでしょう。