マイネッケの歴史主義の成立の表象
表象の多義性と歴史主義
フリードリヒ・マイネッケ（1862-1954）の歴史主義は、19世紀後半から20世紀前半にかけての歴史学、そしてより広くは人文・社会科学に多大な影響を与えた思想潮流です。彼の歴史主義は、単なる史料批判や歴史叙述の枠を超え、人間と世界の関係、認識のあり方、さらには政治や文化のあり方にも深く関わる、 umfassende（包括的な）な思想体系であったといえます。
しかしながら、マイネッケの歴史主義の「表象」、つまりそのイメージや解釈は、時代や立場によって大きく異なり、一筋縄では捉えきれない複雑さを孕んでいます。本稿では、マイネッケの歴史主義の成立に関する多様な表象を、具体的な論点を交えながら詳細に検討していきます。
ランケとの連続性と断絶：師弟関係を超えた思想的葛藤
マイネッケの歴史主義を考える上で、まず避けて通れないのが、彼の師とされるレオポルト・フォン・ランケ（1795-1886）との関係です。ランケは「史料にもとづいて歴史を語る」という実証主義的な歴史学を確立した人物として知られており、マイネッケもまた、その影響を強く受けたといわれています。
しかし、近年では、両者の間には、方法論や歴史観において、連続性と同時に、無視できない断絶が存在したことが指摘されています。例えば、ランケが「客観的な歴史叙述」を目指したのに対し、マイネッケは歴史家の主観的な視点を重視し、「歴史は現在と過去との対話」であると主張しました。
政治思想との関連：国民国家と歴史主義の複雑な関係性
マイネッケの歴史主義は、当時のドイツの政治状況、特に国民国家の形成と深く結びついていたことも、その表象を複雑にしている要因の一つです。マイネッケは、国民国家の成立を歴史的な必然と捉え、その正当性を歴史的に基礎づけようとしました。
しかし、彼の政治思想は、ナチズムによる歴史の歪曲という悲劇的な結末を迎えることになります。ナチスは、マイネッケの歴史主義を自分たちに都合の良いように解釈し、自らの侵略行為や人種差別政策を正当化するために利用しました。
個別性の重視と全体主義の影：歴史主義は全体主義に繋がるのか
マイネッケの歴史主義は、個々の歴史的事象の個別性や特殊性を重視することを特徴としています。彼は、歴史を普遍的な法則で説明しようとする試みを批判し、それぞれの時代や文化には、独自の価値観や規範が存在すると主張しました。
しかし、その一方で、マイネッケの歴史主義は、全体主義的な傾向を孕んでいるという批判もあります。彼の思想は、個々の国家や民族の特殊性を強調するあまり、国家間の対立や排他的なナショナリズムを助長する危険性をはらんでいるという指摘です。
以上のように、マイネッケの歴史主義の成立とその表象は、ランケとの関係、政治思想との関連、全体主義との関連など、様々な視点から考察することができます。彼の歴史主義は、20世紀の歴史学に大きな影響を与えた一方で、その思想は多面的であり、現代においてもなお議論の的となっています。