## ボッカチオのデカメロンの思考の枠組み
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ペストと人間存在
『デカメロン』は、1348年のフィレンツェを襲ったペストという未曾有の災厄を背景に物語が展開されます。ボッカチオは、ペストがもたらした混乱と死の恐怖が、人間の道徳や理性、社会秩序を崩壊させる様子を生々しく描いています。その一方で、ペスト禍という極限状態においてこそ、人間の狡猾さや愚かさだけでなく、愛や知恵、ユーモアといった人間の本質的な力が際立つことを示唆しています。
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物語と現実の往還
『デカメロン』は、ペストから逃れた10人の男女が10日間にわたって語る100編の物語から構成されています。物語は、恋愛、冒険、商人や聖職者の滑稽譚、歴史上の出来事など、多岐にわたるテーマを扱っています。ボッカチオは、現実のペスト禍という過酷な状況と、物語世界における喜劇や悲劇を対比させることで、人間の様々な側面を浮き彫りにし、人生の多様性と複雑さを描き出しています。
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運命と自由意志
『デカメロン』の物語には、運命のいたずらや偶然の出会いが頻繁に登場します。登場人物たちは、時に運命に翻弄され、時に自らの意志で行動を起こし、それぞれの物語を紡ぎ出していきます。ボッカチオは、運命論的な世界観を示す一方で、人間の自由意志と行動の可能性を強調することで、受動的な運命観にとらわれず、積極的に人生を切り開いていくことの重要性を暗示しています。
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教会批判と人間中心主義
『デカメロン』には、当時の腐敗した教会や聖職者を風刺する物語が数多く含まれています。ボッカチオは、教会の権威や教義よりも、人間の理性や経験、現実的な問題解決を重視する姿勢を示しています。これは、中世的な神中心主義から人間中心主義へと移行していく、ルネサンスの思想を反映していると言えるでしょう。
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愛と性の多様性
『デカメロン』では、様々な形の愛が描かれています。宮廷恋愛のような高尚な愛だけでなく、肉欲的な愛や不倫、同性愛など、当時の社会ではタブーとされていた愛の形も肯定的に描写されています。ボッカチオは、愛の多様性を認め、人間の自然な欲求としての性を肯定的に捉えることで、中世の禁欲的な道徳観に挑戦しています。