ボッカチオのデカメロンの価値
文学史における位置づけ
「デカメロン」は、14世紀イタリア文学を代表する作品であり、ボッカチオの代表作です。当時のフィレンツェで流行したペスト禍を背景に、男女10人が郊外の館に避難し、10日間にわたってそれぞれ1話ずつ物語を語るという枠物語の形式をとっています。
写実性と人間描写
「デカメロン」は、聖職者から農民まで幅広い階層の人々が登場し、恋愛、機知、欲望、欺瞞など、人間のあらゆる側面を生き生きと描いています。ペスト禍という極限状態を描写することで、人間の生の喜びと哀しみ、そして人間の弱さと強さが浮き彫りになっています。
文体と語り口
ボッカチオは、当時の口語であるトスカーナ語を用いて、簡潔で明快、かつ洗練された文体で物語を紡ぎ出しています。ユーモアと皮肉を交えながら、時には詩的に、時には猥雑に物語が語られることで、読者は登場人物たちの世界に引き込まれていきます。
社会風刺
「デカメロン」には、当時の社会に対する痛烈な風刺が込められています。特に、聖職者の腐敗や偽善、封建制度の矛盾などが鋭く批判されています。ボッカチオは、人間の理性と自由を信じており、教会や貴族社会の権威主義に対して異議を唱えています。
後世への影響
「デカメロン」は、イタリアのみならずヨーロッパ文学に多大な影響を与えました。チョーサーの「カンタベリー物語」やシェイクスピアの戯曲など、多くの作品に影響を与えたと言われています。また、その写実的な人間描写は、後のルネサンス文学の先駆けとなりました。