## ボアンカレの科学と方法の光と影
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光:数学における直観の重要性を強調
アンリ・ポアンカレは、「科学と方法」の中で、数学的発見における直観の役割を強く主張しました。彼は、論理と厳密性だけでは真の創造的な進歩は得られず、直観が新しいアイデアを生み出すための原動力となると考えました。
ポアンカレは、自身の数学的研究における経験に基づき、無意識のうちに問題解決が行われる過程を詳細に分析しました。彼は、意識的な努力の後、一見関係のない瞬間に突然ひらめきが訪れることがあると述べています。このひらめきこそが、論理を超えた直観の力によるものだと彼は考えました。
ポアンカレは、直観を単なる「勘」とは区別しました。彼にとって、直観とは、長年の研究と深い思考を通じて培われた、数学的構造に対する鋭い洞察力を意味しました。
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光:科学における仮説の役割を明確化
ポアンカレは、科学理論は、観察や実験から直接導き出されるのではなく、科学者によって創造的に構築された「仮説」に基づくと主張しました。彼は、科学における仮説の役割を、「事実を結びつけ、説明し、予測するための道具」と定義しました。
彼は、複数の仮説が同じ現象を説明できる場合があると指摘し、科学者にとって最適な仮説を選択する基準を提示しました。その基準とは、「単純さ」、「一般性」、「予測可能性」でした。彼は、よりシンプルで、より多くの現象を説明でき、より多くの新しい予測を生み出す仮説ほど、より「有用」であると考えました。
ポアンカレは、仮説の暫定的な性質も強調しました。彼は、どんなに優れた仮説であっても、将来の観察や実験によって反証される可能性があると述べました。科学は、絶えず仮説を検証し、修正していく動的なプロセスであると彼は考えました。
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影:数学における形式主義と対立
ポアンカレは、当時の数学界で台頭していた「形式主義」に対して、批判的な立場をとりました。形式主義とは、数学を記号操作の体系として捉え、論理と厳密性のみを重視する立場です。
彼は、形式主義的なアプローチでは、数学の真の創造性を捉えきれないと主張しました。彼は、形式的な証明は既存の知識を確認するだけであり、新しいアイデアを生み出すことはできないと考えました。
ポアンカレは、ヒルベルトの形式主義プログラムに対して、特に強い批判を表明しました。彼は、ヒルベルトが目指した「数学の完全な形式化」は不可能であると主張しました。
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影:科学における完全な客観性への疑問
ポアンカレは、科学者が完全に客観的な立場をとることは不可能であると主張しました。彼は、科学者は自身の経験、知識、価値観といった「主観的な要素」の影響を受けることを指摘しました。
彼は、観察や実験は、理論的に中立なものではなく、科学者の期待や仮説によって影響を受けると述べました。また、科学者がどの問題を研究するのか、どの仮説を重視するのかといった選択も、主観的な要素によって左右されると考えました。
ただし、ポアンカレは、科学における主観性を完全に否定したわけではありません。彼は、科学者が自身の主観性を自覚し、批判的に吟味することによって、より客観的な知識に近づくことができると考えていました。