## ホールのアメリカ史の解釈の美
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ホールのアメリカ史観の美しさとは
フレデリック・ジャクソン・ターナーのフロンティア thesisを批判的に継承したことで知られる歴史家、リチャード・ホフスタッターは、かつて、アメリカ史における「コンセンサス史学」の代表格と見なされていました。しかし、1960年代以降、ベトナム反戦運動や公民権運動の高まりの中で、アメリカ社会の「暗部」に光を当てる修正主義史学が台頭し始めます。
こうした学問的潮流の変化の中で、1974年に出版されたのが、プリンストン大学教授であったジョン・M・ホールの『アメリカ史の解釈』でした。本書は、アメリカ史における主要なテーマや問題について、ターナー、チャールズ・オースティン・ビアード、パーカー・トーマス・ムーンといった、当時の代表的な歴史家たちの解釈を紹介し、それぞれの立場や方法、そして限界点を、明快かつ公平な筆致で解説したものです。
ホール自身は特定の立場を主張するのではなく、あくまでも「解釈」という視点を重視し、読者に対して、歴史というものが常に複数の視点から捉え直されるべきであるという、重要なメッセージを投げかけています。多様な解釈を紹介することで、読者自身が歴史について主体的に考えることを促す、その姿勢こそが、ホールのアメリカ史観における最大の魅力と言えるでしょう。
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多様な視点の提示が生む美しさ
ホールは本書において、一貫して「対話」の姿勢を貫き、異なる歴史観を対置させることで、アメリカ史の複雑さを浮き彫りにしています。例えば、進歩主義時代を取り上げた章では、ビアードが主張する経済的解釈と、ムーンが重視する社会的な改革運動という二つの視点を対比させながら、読者に多角的な歴史理解を促しています。
従来の通史的な歴史書とは異なり、断片的な記述が多いのも本書の特徴です。しかし、これは決して欠点ではなく、それぞれの歴史家の主張を、読者自身が比較検討するための、重要な役割を果たしています。
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歴史を「解釈」することの重要性
ホールは本書を通じて、歴史とは単なる過去の出来事の羅列ではなく、それを解釈する歴史家自身の視点によって大きく左右されるものであることを、読者に強く印象づけています。
そして、その解釈は時代や社会状況、さらには歴史家自身の立場や思想によって変化する可能性があることを示唆しています。歴史を学ぶということは、単に過去の出来事を暗記することではなく、絶えずその解釈を問い直し、多様な視点から考察することの重要性を、ホールは本書を通じて訴えかけているのです。