## ホールのアメリカ史の解釈から学ぶ時代性
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アメリカ史解釈に見る時代性:進歩主義史観とホール
フレデリック・ジャクソン・ターナーのフロンティア論がアメリカ史学界を席巻していた20世紀初頭、異を唱える歴史家が現れました。それが、本書『アメリカの歴史における諸矛盾』を1927年に発表したチャールズ・オースティン・ベアード、そして1932年に『アメリカ文明における宗教と思想』を著したヴァーノン・ルイス・パrington、そして1935年に『アメリカにおける植民地時代』を刊行したジェームズ・トラスク・アダムズらです。彼らは、それまでのアメリカ史研究に見られた、アングロサクソン中心主義や、政治史偏重主義を批判し、より多様な視点からアメリカ史を捉え直そうとしました。
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進歩主義史観への批判と相対主義的歴史観の台頭
ベアードは、アメリカ憲法が建国の父の経済的利害を反映して作られたと主張し、パringtonは、アメリカ人の宗教的信念が経済的動機によって形成されてきたと論じました。また、アダムズは、植民地時代のアメリカ社会における階級闘争に着目し、植民地革命を、上流階級による支配体制を維持するための闘争として描きました。彼らは、それぞれの視点から、それまで当然視されてきたアメリカ史の「神話」を解体しようと試みたのです。
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社会構造の変化と歴史観の変遷
こうした新しい歴史観は、「進歩主義史観」と呼ばれることもあります。進歩主義史観は、19世紀後半から20世紀前半にかけてアメリカ社会を席巻した、進歩主義運動と密接に関連しています。進歩主義運動は、産業革命によって生じた貧富の格差や、政治腐敗などの社会問題を解決するために、政府による積極的な介入を訴えました。そして、進歩主義史観は、こうした社会改革の動きを正当化するために、アメリカ史を、自由と民主主義を求める闘争の歴史として描き出す役割を担いました。
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ホールの登場:新しい歴史叙述の可能性
しかし、1920年代に入ると、第一次世界大戦の勃発や、世界恐慌の発生などを経て、アメリカ社会は大きく変化します。人々は、進歩主義が唱える理想と現実とのギャップに直面し、従来の価値観に疑問を抱き始めました。こうした時代背景の中で、進歩主義史観に対しても批判的な見方が広がっていきました。
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歴史解釈の多様性と現代社会への示唆
こうした流れの中で登場したのが、ルイス・ペリー・ホールです。ホールは、1959年に発表した『アメリカ史における矛盾』の中で、アメリカ史を、一貫した進歩の歴史としてではなく、相反する価値観や理念がせめぎ合う、矛盾と葛藤の歴史として描きました。彼は、自由と平等、個人主義と共同体主義、物質主義と精神主義など、一見相反する価値観が、アメリカ社会において常にせめぎ合い、そのバランスの上にアメリカの歴史が成り立ってきたと論じました。