## ベルクソンの時間と自由を深く理解するための背景知識
１．１９世紀後半の知的状況
ベルクソン（１８５９−１９４１）が生きた１９世紀後半は、科学、特にニュートン力学的世界観が社会全体に大きな影響を与えていました。この世界観は、時間は空間と同様に均質で可逆的なものであり、すべての事象は因果律によって決定されているという考えに基づいています。このような決定論的な考え方は、人間の自由意志という問題に深刻な疑問を投げかけることになりました。もしすべての出来事が過去の出来事によって決定されているとすれば、人間の行為もまたすでに決定されていることになり、自由な選択などありえないことになるからです。
２．当時の哲学的潮流
１９世紀後半の哲学は、大きく分けて二つの潮流に分けられます。一つは、科学的世界観を哲学に取り込もうとする実証主義や唯物論です。これらは、客観的な観察と実験によって得られた知識のみを真の知識とみなし、人間の意識や自由意志といった主観的な要素を軽視する傾向がありました。もう一つは、科学主義に対抗し、人間の精神や内面的な経験を重視する流れです。この流れの中には、カントの超越論哲学の影響を受けた新カント派や、生の哲学の先駆けとなるキルケゴールやニーチェなどが含まれます。
３．心理学における時間意識の研究
ベルクソンは、当時の心理学、特に意識の研究にも深い関心を寄せていました。１９世紀後半には、ヴントやエビングハウスらによって実験心理学が発展し、人間の意識や精神活動を科学的に研究しようとする動きが盛んになっていました。その中で、人間の時間意識、つまり、過去・現在・未来をどのように経験するかという問題も注目を集めていました。ベルクソンは、心理学におけるこれらの研究成果を批判的に検討し、自らの時間論の構築に役立てました。
４．進化論の影響
ダーウィンの進化論は、１９世紀後半の思想界に大きな衝撃を与えました。進化論は、生物は神によって創造されたのではなく、長い時間をかけて自然選択によって進化してきたという考えを提示しました。この考え方は、人間の存在を自然の一部として捉え直し、人間の精神もまた進化の産物であることを示唆しました。ベルクソンは、進化論の影響を受けながらも、ダーウィンの進化論を機械論的な解釈に限定するのではなく、生命の創造性と進化を独自の視点から捉え直そうとしました。
５．スピノザ哲学
ベルクソンは、１７世紀の哲学者スピノザの哲学にも深い関心を寄せていました。スピノザは、神と自然を同一視し、すべての事物が神の属性である延長と精神によって構成されているという汎神論を展開しました。ベルクソンは、スピノザの汎神論的な思想に共感しつつも、スピノザが時間を空間化し、持続を軽視している点を批判しました。ベルクソンは、スピノザ哲学を批判的に検討することで、自らの持続と自由の哲学を構築していきました。
６．生命の概念
ベルクソンの哲学において、「生命」は重要な概念です。ベルクソンは、生命を、絶えず変化し、創造していく力と捉えました。生命は、機械のようにあらかじめ決められた通りに動くのではなく、常に新しいものを生み出し、進化していくダイナミックな存在です。ベルクソンは、この生命の概念を基に、時間と自由の問題を考察しました。
これらの背景知識を踏まえることで、ベルクソンの時間と自由に関する思想をより深く理解することができます。ベルクソンは、当時の科学主義や決定論的な世界観に異議を唱え、人間の自由と創造性を擁護するために、独自の時間論と生命論を展開しました。彼の思想は、現代においてもなお、人間の存在と自由について考える上で重要な示唆を与えてくれるものです。
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