## ヘッブの行動の機構の思想的背景
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心理学における当時の支配的な思想
ヘッブが「行動の機構」を執筆した1940年代は、心理学において行動主義が支配的な思想でした。行動主義は、観察可能な行動のみを研究対象とし、意識や思考といった内的プロセスを重視しない立場を取っていました。パブロフの古典的条件付けやワトソンの行動主義心理学の影響を受け、学習は刺激と反応の結びつきによって説明されると考えられていました。
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ヘッブの異論と神経生理学からの影響
ヘッブは、行動主義の限界を感じていました。行動主義では、複雑な行動や認知能力を十分に説明できないと考えたのです。彼は、行動の基盤となる神経メカニズムに目を向け、脳内の神経細胞の活動と相互作用が学習や記憶に重要な役割を果たすと考えました。
ヘッブは、シェリントンやパブロフといった神経生理学者の研究から大きな影響を受けました。特に、シェリントンのシナプス可塑性の概念は、ヘッブの理論の基礎となりました。シナプス可塑性とは、神経細胞間の接続強度が経験によって変化する性質を指します。
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ゲシュタルト心理学の影響
ヘッブは、行動主義だけでなく、当時のもう一つの主要な心理学派閥であったゲシュタルト心理学からも影響を受けていました。ゲシュタルト心理学は、全体は部分の総和以上であるとし、知覚や思考における全体性の重要性を強調しました。ヘッブは、脳内の神経細胞がネットワークとして活動し、全体として行動や認知を形成すると考えました。これは、ゲシュタルト心理学の全体論的な視点と共通するものでした。
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ヘブの理論の革新性
ヘッブは、神経生理学と心理学の知見を統合することで、行動と学習の神経メカニズムに関する革新的な理論を提唱しました。彼の理論は、後の神経科学や人工知能の研究に多大な影響を与え、現代における脳と心の理解に大きく貢献しました。