## プリゴジンの混沌からの秩序の原点
### プリゴジンの生い立ちと学問的背景
イリヤ・プリゴジン(Ilya Prigogine)は、1917年1月25日にロシアのモスクワで生まれました。1921年には家族とともにロシア革命を逃れてベルギーに移住し、ブリュッセルで育ちました。
ブリュッセル自由大学で化学を専攻し、1941年に博士号を取得。その後、同大学で教鞭をとりながら、熱力学、統計力学、非平衡熱力学の研究に没頭しました。特に、不可逆過程の熱力学に強い関心を持ち、従来の平衡状態を中心とした熱力学の枠組みを超えた、非平衡状態における秩序形成のメカニズムの解明を目指しました。
### 熱力学第二法則とエントロピーの概念との格闘
プリゴジンは、熱力学第二法則、すなわち「エントロピー増大の法則」と、自然界に観察される秩序形成との間に矛盾を感じていました。熱力学第二法則は、孤立系においてはエントロピーと呼ばれる乱雑さの指標が時間とともに増大し、最終的には平衡状態に至ることを示唆しています。
しかし、現実の世界では、生命の誕生や進化、結晶の成長、星の形成など、むしろ秩序が自発的に形成される現象が数多く観察されます。プリゴジンは、この矛盾を解消するために、従来の平衡状態を中心とした熱力学の枠組みを超えた、非平衡状態における秩序形成のメカニズムを解明しようと試みました。
### 散逸構造の発見と「混沌からの秩序」
長年の研究の末、プリゴジンは、非平衡状態にある開放系において、外部からのエネルギーの流れが、系内部に秩序を生み出すための駆動力となりうることを発見しました。
具体的には、非平衡状態においては、系内部にエネルギーの散逸が生じ、その散逸を最小にするような構造が自発的に形成される場合があることを明らかにしました。プリゴジンは、このような散逸と秩序形成のメカニズムを「散逸構造」と名付けました。
散逸構造の発見は、従来の熱力学の常識を覆し、「混沌」とした非平衡状態から、ある条件下では自発的に「秩序」が形成されうることを示す画期的なものでした。これはまさに、「混沌からの秩序」という、プリゴジンの思想を象徴する概念の誕生でした。