ブローデルの地中海の案内
### 地中海世界という壮大な歴史画
フェルナン・ブローデルの浩瀚な歴史書『地中海』は、16世紀の地中海世界を、従来の歴史書とは全く異なる視点から描き出した記念碑的作品です。
### ブローデル史学の特徴:長期持続と全体史の視点
ブローデルは、歴史を捉える上で、単なる事件や人物の羅列ではなく、長期持続する構造や変化の遅い時間に着目する「長期持続」の概念を提唱しました。 彼は、地中海という地理的空間を舞台に、そこに暮らす人々の生活、経済活動、文化、政治、戦争といった多様な側面を、長期的な時間軸の中で相互に関連付けながら描き出しました。
### 第一部:環境が歴史に及ぼす影響「ほとんど動かない歴史」
第一部では、山脈や平野、気候、海流といった地理的環境が、人々の生活様式や経済活動、文化にどのような影響を与えてきたのかを考察しています。 ブローデルは、地理的環境が歴史に与える影響を重視し、これを「ほとんど動かない歴史」と呼びました。 地中海という閉鎖された海は、周囲の陸地と密接に関係しながら、独自の生態系や風土、文化を育んできました。
### 第二部:経済活動と社会構造「ゆっくり動く歴史」
第二部では、16世紀の地中海世界における貿易や農業、都市と農村の関係、社会階層といった経済活動や社会構造に焦点を当てています。 ブローデルは、経済活動や社会構造が、地理的環境と密接に関係しながら、ゆっくりとした時間の中で変化していく様相を「ゆっくり動く歴史」として描いています。 地中海交易は、東西の文化や商品を結びつけ、都市の繁栄と農村の経済活動に大きな影響を与えました。
### 第三部:帝国と国家の興亡「短期間の歴史」
第三部では、オスマン帝国やスペイン帝国といった国家間の政治的対立や戦争、外交といった政治史を扱っています。 ブローデルは、従来の歴史書で重視されてきた政治的事件や人物の役割を相対化し、これらを「短期間の歴史」と位置づけました。 16世紀の地中海世界は、オスマン帝国とスペイン帝国という二大勢力による覇権争いの舞台となり、激しい戦いが繰り広げられました。
### ブローデルが残したもの:歴史学への多大な貢献と新たな地平
『地中海』は、従来の政治史中心の歴史観を覆し、地理学、経済学、社会学、文化人類学といった様々な学問分野を取り入れた、総合的な歴史叙述を確立した点で画期的でした。 その壮大なスケールと緻密な分析は、歴史学に新たな地平を切り開き、後世の歴史家に多大な影響を与えました。