ブローデルの地中海の思索
地中海世界という壮大な歴史叙述
フェルナン・ブローデルの『地中海』は、16世紀の地中海世界を、従来の歴史叙述とは異なる壮大なスケールで描き出した monumental な作品です。
地理と歴史の融合
ブローデルは、歴史を動かす基層に地理、気候、環境などの地理的要因が存在すると考えました。地中海という閉ざされた海を舞台に、山脈、島嶼、風といった地理的条件が、人々の生活、交易、文化、さらには歴史の推移にまで深く影響を与えていることを、膨大な史料と鋭い分析によって明らかにしました。
歴史の多層構造
ブローデルは、歴史を単線的な時間の流れとして捉えるのではなく、「長期持続」「中期」「短期」という3つの異なる時間軸からなる多層構造として理解することを提唱しました。
長期持続
「長期持続」は、ほとんど変化しない環境や気候、生活様式などを指し、地中海世界を支える基盤として機能していました。山がちな地形、温暖で乾燥した気候、オリーブやブドウの栽培に適した風土といった地理的条件は、何世紀にもわたって人々の生活様式を規定してきました。
中期
「中期」は、経済活動や社会構造、国家の興亡など、数十年から数百年のスパンで変動する歴史現象を指します。16世紀の地中海世界では、ヴェネツィア、ジェノヴァ、オスマン帝国といった国家や勢力が、海上交易や覇権を巡って争いを繰り広げていました。
短期
「短期」は、政治的事件や戦争、個人の生涯など、数年から数十年の短いスパンで展開される歴史的事象を指します。1571年のレパントの海戦のような戦いは、短期的には歴史の流れに大きな影響を与えるものの、地中海世界の根底構造を揺るがすものではありませんでした。
全体像の把握
ブローデルは、これらの異なる時間軸が相互に影響し合いながら、複雑な歴史のタペストリーを織りなしていると論じました。そして、地中海世界を一つの全体として捉え、その構造と変化を多角的に分析することで、歴史のダイナミズムを浮き彫りにしようと試みました。